「おかしい」 「何が」 サンダークラッカーが幸せそうに笑うのを 同じ顔をした2羽はむっすりとした表情で見ながら言った。 「頻度が高い」 Day by day サンダークラッカーがアイセンサーを数度明滅させながら 左右に座る同僚を見やった。 スタースクリームは紙パックにストローをさしたものを片手に 持ちながら中にあるエネルゴンを吸い込んでいる。 「お前それ何飲んでんの?」 「エネルゴンだけど」 「いや、その容器な。何でキューブじゃねぇんだよ」 「だろ!?意味わかんねぇよなぁ!」 スカイワープの質問にスタースクリームは大声をあげると スカイワープの顔を指差しながらパックを振った。 ちゃぷっと中にある量を予想させる音がするとスタースクリームは 「メガトロンが」と続けざまに語りを始める。 「メガトロン様?」 「兵器開発や紙資材のゴミを集めてリサイクルだってよ!はぁ?だよな」 「流石メガトロン様だぜぇ!」 「スカイワープうるせぇ。キューブをつくるよりこっちのほうが良いとか言って」 「あの」 「この後ゴミを燃やす時のエネルギー換算したらどっちもどっちじゃねぇかよ!」 「ちょっと」 「メガトロン様のこと悪く良いんじゃねぇやい!」 「っせぇ!馬鹿ワープ!」 スタースクリームが最後の量を飲むと紙で出来たパックをべこべこと 音を鳴らしながら中に息を吹き込んだり吸ったりしている。 スカイワープが「てめぇこそうるせぇ!」と言い始めて喧嘩になるが そうじゃなくて、俺はお前らに言いたいことが。 「なぁ!」 「なんだよ!」 「あぁ?」 「さっきの、頻度がってなに?」 「ヤる回数に決まってんだろ」 「サウンドウェーブと週1もヤる必要ねぇだろ」 硬直する。頻度が高い、か? 週1でサウンドウェーブに呼び出されるのを俺は嬉しく思っていて ちょっと声をかけられれば頬が緩むのを懸命に抑えるのに必死なのに もっと頻度が少なくて良いと、こいつらは言うのだろうか。 「…どして?」 「サウンドウェーブは何万年ってやってなくて溜まってるって言ってたんだぜ」 「それが一週間ヤるだけで解消できたんだ」 「単純計算でも百年に1度で十分過ぎるだろ?」 言われて見れば、そうかもしれない。 週1度は多すぎるのか、そうか。そうだ、よな スタースクリームが紙パックを手で捻り潰すと机の上に放った。 一度欠伸をだしてからもう一度こちらを見てくる。 「そうだろ?」 「…そうだな」 「ほら見ろ、てめぇ使われ過ぎじゃねぇ?」 「…でも俺」 「頻度の多い交歓行為は癖になるぜ、やめとけやめとけ」 「そうだそうだ」 でも、俺は。 スタースクリームが視線を一度違う方へと向けてから「おい」と声をかけてくる 視線をやれば青い機体がこちらに向かってくるのがわかった。 当然、自分の心は跳ねた。恐怖ではなく歓喜で。 返事は返ってこなくても俺は相変わらずこの男が好きなんだ。 「サンダークラッカー」 「さ、サウンドウェーブ…!」 「…」 「…」 スタースクリームとスカイワープが目を合わせる動きをしたが そんなことは構わず自分は青色に夢中だった。 こいつの低い声が好きだ。無愛想だと思ったこともあるけど うるさくなくて常に落ち着いていて、すとんと心に落ちてくる声。 赤いバイザーも好きだ。青色の中にある赤色が綺麗だし 下手にそこから鋭いアイセンサーが見えるより、何となく心に優しい。 それから、動作も… 「待てよサウンドウェーブ」 スタースクリームが紙パックを投げた。 くしゃくしゃになったそれがサウンドウェーブに飛んでいくと片手でそれを 受け止めてサウンドウェーブはスタースクリームを見た。 自分も考えていたことを止めてそのやり取りを見る。 「なんだ」 「今こいつは俺たちとお取り込み中だ」 「今度にしろよ」 「…えっ?え、待」 「断る」 サウンドウェーブのはっきりした声に自分の心も躍る。 俺に、サウンドウェーブが俺に用がある。 役に立たない俺に、スタースクリームじゃなくて、俺に。 頬が熱くなってきて俯くとサウンドウェーブが仕方なさそうに息を吐いた。 歩み寄ってくるのにスカイワープが「ちょっと待てい」と立ち上がれば サウンドウェーブは歩むのをやめるしかない。 スカイワープが両肩を押してサウンドウェーブを押し戻すと サウンドウェーブはスカイワープの羽を掴んで引き寄せた。 スカイワープが驚いた様に悲鳴をあげる。 「うわっ」とスタースクリームも声をあげる。 自分の口からは悲鳴の一つも出なかった。 スカイワープの肩に手を回して背中をこちらに向けるのを見て 急激に寒くなった。指先や足先、羽先まで凍える。 やっぱ、ジェットロンなら誰でも良いのか? 「これをやる」 「えっ、いいのか!?」 「あぁ」 「…でも」 「サンダークラッカーに無理はさせてない」 「…」 スカイワープがサウンドウェーブより何か受け取った。 それを暫く眺めた後キャノピーに入れるのが見える。 「…スカイワープ?」 「へへ、わりー」 「…ば、買収されやがって!何で買収されたんだよ!」 スカイワープは何かサウンドウェーブより貰ったらしく にこにこ笑ってサウンドウェーブを通した。 「てめぇにゃ関係ねぇな」 「メガトロン様の私物だ」 サンダークラッカーがぽかんと口を開けた。 スカイワープが少し飛び上がってサウンドウェーブを怒鳴りつけると スタースクリームは信じられないと言った表情を向けて スカイワープの名を呼んだ。 「て、てめぇみたいに何時もメガトロン様と一緒に居れる訳じゃねぇんだよ!」 「な、なんでそれを俺に言うんだよ!」 スカイワープがスタースクリームを指差すとスタースクリームまでつられて 頬を赤らめて怒鳴り返した。 サンダークラッカーといえば黙ってそれを見つめるだけだ。 あぁ、スカイワープの奴メガトロン様信者だもんなぁ、と納得の視線を送りつつ だからってちょっとその執着心は異常だと思う。 「俺がいっつもメガトロンと一緒みたいな言い方すんじゃねぇ!」 「だって事実じゃねぇか!」 「んだと…!」 「サンダークラッカー」 顔を2体から違う方へ動かすとそこにはサウンドウェーブが居た。 名を呼ぶ前に手を握られ立つように促される。 「こい」 「…ん」 頷いて、サウンドウェーブの指示に従う。 今日は、前に行為を行った日から一週間立った日だから 呼び出されるのが仕事内容ではないことは理解できた上での返事だ。 サウンドウェーブが俺を「好き」だって言わなくても俺は嬉しいし たとえ俺の気持ちを利用されているんだとしてもそれで構わない。 だってそれほどこいつは俺の憧れで。俺の好きな奴なんだ。 * サウンドウェーブの寝室で、寝台にゆったりと押し倒されて 頭を撫でられるとうっとりと目を細めた。 利用されてても良い。しかしこれは気になっていた。 「サウンドウェーブ」 「どうした?」 首筋をちゅっと吸われてサウンドウェーブの背中に腕を回すと サンダークラッカーは暫く黙った後にその背後に回した手を とんとんと叩いてサウンドウェーブを呼んだ。 「…?」 サウンドウェーブが疑問に顔を覗き込んできて目が合うと サンダークラッカーはやっと話し始めた。 「…頻度高くないか?」 「…は?」 「しゅ、週1って回数…」 「…」 サウンドウェーブが黙ってそれから考えるようなそぶりをする。 サウンドウェーブですらその事実に気付いていなかったのか? ジェットロンに指摘されないと気付かないはずがない、この男だぞ。 「サウンドウェーブ…」 「…いやか」 「えっ」 「週に1度では嫌か」 「そ、ん…」 そんなわけない。 でも理由を聞きたい。どうしてこんな頻繁に抱いてくれる? お礼か?俺がお前に触れたがってるから、それを察して回数多く抱いて くれてるのか?だとしたら嬉しい。 「サウンドウェーブは?」 「なに」 「週に1度やらねぇと、足らないのか?」 質問を質問で返すのは礼儀正しいとは言えないだろう。 しかし、聞いてみたかった。サウンドウェーブの口から言って欲しかった。 週に1度で足りてるのか?足りてないのか?どうなんだよ。サウンドウェーブ。 「…」 「…」 「…足りている」 「…じゃ、あどうして」 「…それは」 「俺が、お前を好きだからか?」 「…違う」 目を見開いた。 ちがう?俺のために、回数を多くこなしてくれてるんじゃないのか? どうしてだよ、これが「サウンドウェーブがやりたがってる」とか だったらもう、俺嬉しすぎてどうにかなっちまうかもしれない。 「どうしてだ?サウンドウェーブ…」 「…」 答えてくれサウンドウェーブ。 どうして?俺がお前を好きだって告げたから俺のためにじゃないのか? どうして?誰かの命令?メガトロン様とかにちょっと多めに抱いてやれとか 言われてるのか?サウンドウェーブ。答えてくれ、知りたい。 酷い答えでも、良い。 「…うるさい」 「…っ…サウンド…」 「違う。ブレインスキャンした」 「…?」 「お前の頭の中、情報が詰まりすぎだ。混乱するな」 「…ん、ってか…ブレインスキャンすんなよ…」 「…」 「ずるい、よな。それ、俺も使ってみたい」 「お前には不可能だ」 きっぱりと断ち切られて残念な気持ちになる。 だって、それが使えればお前の気持ちも俺わかるじゃんか。 変に不安になったりしねぇ。羨ましい。 「スキャンはエネルギーを使う上に無防備になる」 「…」 「敵の前では隠れて使う」 「…わかってる」 「味方の前でも、信頼できる相手じゃないと真正面からはスキャンしない」 「…サウンドウェーブ」 手を絡めてマスクがスライドされると唇を重ねられた。 これ、好きだ。口同士を重ねるの、すげぇ好き。 だって交歓行為には関係ない、これすると恋人同士みたいで、さ。 あ、また流された、答え聞いてないのに。 聞きたかったな、答え。もしかしたら俺の聞きたい言葉だったかも しんねぇしさ。ここで我侭言って「答えてくんねぇと接続してやんねぇ!」て 言うのもまたありかもしんねぇけど、もし「わかった」だなんて 素っ気ねぇ返事が返ってきて、本当に抱いてくれなくなったりとかしたら 「うるさい」 「えっ」 「…」 「ま、まだブレインスキャンしてんのか…!?」 頭を押さえて出来るだけ変なことを考えないようにする。 どうしよう、気持ち悪いとか思われなかっただろうか スカイワープがメガトロン様信者すぎてちょっと異常とか 言ってる場合じゃねぇよ…!俺のほうがおかしいんじゃねぇの? メガトロン様格好良いよなって言うだけのスカイワープなら可愛いもんだ。 俺は、「抱いて欲しい」だなんて変態じゃねぇか。 「…ごめ」 「…」 「ごめん…」 好きなんだ。 ちょっと酷いことされても良いくらい。 ちょっと優しい事されるとほだされるほど。 俺気持ち悪… 「…ごめ」 「好きだ」 身体が硬直した。 サウンドウェーブを見るのが怖くて横顔を 寝台に押し付けていたせいもあって聴覚はサウンドウェーブに向いていた。 凄く鮮明に音が拾えた。低いくぐもった声のはずが綺麗に聞き取れた。 サウンドウェーブがその聴覚機器に唇を押し当てて 数度噛むように唇を動かした。 凄く、どきどきする。スパークが壊れるほどにばくばくと動いて 指先まで痺れ始める。あ、俺緊張してんだってやっと気付いた。 「さ、さうんど…っ」 声が大丈夫か?ってくらい震えてる。 焦って口を一度閉じると口内にオイルが溢れてきた。 な、なんで?って思って一度飲み込むと随分と大きな音で「ごくり」と 音が響いて恥ずかしくなる。わ、わわ。どうしよう。どうしよう。 「くっ」 「…っわ…わら…」 「好きだ。サンダークラッカー」 「っ…!」 身体が足先からぞわぞわっと這い上がるように頭のてっぺんまで震え上がった。 今度は名前つき。目が眩むほどの幸福感。 「う、うそだ、」 「…」 「サ、サウンドウェーブが…俺を、好きなはず」 「何故だ」 「だ、て俺駄目だし、気持ちわり…」 「好きだ」 また身体中が震え上がる。うわぁ、これだけで俺いけるかも。 目元が熱くなって、息が荒くなっていく。 サウンドウェーブがまた聴覚機器を噛んで名を呼んでくる。そして 「好きだ」 「っ…」 「好きだ、サンダークラッカー」 「あっあの…やめて…」 「何故だ」 「…や、やばいから」 「…好きだ」 「っ…」 サウンドウェーブは、酷い。 酷いけど、優しくて、酷いけど、すげぇやつで。 「俺も…好きです…」 好きだ。