「侵入者だ!」
「敵の数は?」
「エネルゴングリッドが破られそこから約50体ほど、しかしほとんどがテラーコンの
 ようです」
「ラッド。すぐにエネルゴングリッドの復旧をしてくれ。スカイファイヤー
 ここに残ってくれるか?」
「し、しかし司令官!俺も出て…」
「ガルバトロンがきている。外で迎え撃つがもし止められなかった場合…」

狙いはナイトスクリームだろう。とコンボイが言い放つ。
まさか、いや、ありえる話だ。
いくらデストロン軍だろうが、あのガルバトロンだと言おうが
助けに来る確立はある。それがあのナイトスクリームなのだから信憑性は高い。

「だから内部は任せる。頼んだぞ…」
「…はい」


 

再会2
 


エネルゴングリッドをラッドに任せ、自分はナイトスクリームを収容している
牢屋へと向かった。
外では凄い数の砲撃音が繰り出され、激しい戦いは始まっているのがわかる。
自分もできたらそこへ参加したいがガルバトロンがここまで来た時に誰もいない
なんて事があれば危険性だ。
そのままここを陥落されてしまう可能性だって捨てきれない。

「…っな…!」

牢屋までもう少しと言うところで壁に穴が開いているのを見つけた。
こんなでかい穴を開けたのはレーザーウェーブ以来だと思ったが
レーザーウェーブより威力が大きい。まさか、と嫌な予感がした。

「…ガルバトロンか…!」

もし、この穴を開けた奴が内部に侵入したのなら狙いはナイトスクリームだ。
場所はここよりそこまで離れていない。なら近くにいる可能性もある。
辺りを注意しながら走り、収容している扉にパスワードを打ち込んだ。

「ナイトスクリーム!」
「…なんだ」
「…い、いるのか…じゃあ」
「…?」

ナイトスクリームは静かなものだった。
両手首、両足首に手錠をかけさせてもらっているが
後はエネルゴングリッドで出来た特製の鉄格子の中に居るだけで特別変わった
ところはない。
あえて言うならエネルゴングリッドを現在復旧作業中のためここに回されている
エネルゴンは全て停止中だ。しかしエネルゴングリッドがなくてもナイトスクリームを
囲う鉄格子はあのレーザーウェーブをも縛り付けていた合金だ。破壊はできない。

「…まだ侵入者はここまできてないのか…?」
「…」

ナイトスクリームがチラリとこちらを見ると顔をはっとあげた。
ナイトスクリームが生物らしい動きをするのは初めてだ。
あの不機嫌そうな顔以外にこんな驚いた表情ができるとはと思わずそちらに注目する。

「ガルバトロン様…」
「っ!…っうあ…!!」
「…案内ご苦労だったな」

背後より首を絞められ強く掴まれると壁に放り投げられた。
背中を強く打ち付けて咽る。それ以上に身体を起こすことも出来ないほどの威力。
まさか、つけられていたのか?ナイトスクリームの牢獄にわざわざ案内するような
真似をしたのか、自分は。
起き上がろうにもガルバトロンの腕力は強すぎたようで身体が軋む。
微かに顔をあげるだけで精一杯だった。

「ナイトスクリーム」
「…どうして、ここへ」
「助けに来たぞ」
「…そんな」
「すぐに出してやる」

ガルバトロンが鉄格子に触れそれを捻じ曲げようと動かした。
しかし、それは特別製だ。腕力だけでは捻じ曲がらない。
微かに歪んだだけの鉄格子はガルバトロンの手が入る程度に広がったがそれ以上は
広がりを見せず、ナイトスクリームが出れるほどの穴ではない。
かと言って撃ったり斬ったりすればナイトスクリームが危ういだろう。
ガルバトロンが舌打ちするとナイトスクリームが珍しく声を荒げた。

「お逃げください…!」
「…何を言っている」
「お一人では危険です!」
「奴らなら外で囮になってくれておる」
「そういうことでは…!」

スカイファイヤーは咽ながらその光景を見ていた。
ナイトスクリームの必死な表情と、ナイトスクリームを逃がそうとするガルバトロン。
変な光景だと思った。これが本当にデストロンだってのか?

「私などどうでも…」
「ナイトスクリーム!黙っておれ」

ガルバトロンがこちらに歩み寄ってくる。
肩にある翼をモチーフとした部位を踏まれるとひび割れる音がした。

「いっ…!」
「…あれを開けろ」
「あれは開かねぇよ!」
「…」

更に強く踏まれると更に割れる音がした。
痛みに悲鳴が漏れそうになるのを堪えると笑ってやった。

「あの牢獄の鍵はなぁ、グランドコンボイ司令官が持ってるのさ」
「…コンボイ…」
「残念だったなぁ、っ…!!」

最後にもう一度踏みしめられるとその部位は肩から離れ床に落ちた。
痛みにうめき声を上げる。殺されるのか。
しかしガルバトロンはそれだけでまたナイトスクリームのところへ戻った。
こんな雑魚相手にする暇もないって感じだなぁと内心悔しい思いをするが
挑発する体力もない。

「…」
「…お逃げください」

隙間よりガルバトロンが腕を入れるとその頬に触れた。
そのまま指を下ろしていき、ナイトスクリームの手首までたどり着くと
そこにある手錠を素手で割ってみせた。

「…怪我はないか」
「…ガルバトロン様こそ」

腕が自由になったナイトスクリームが鉄格子にしがみ付くように
ガルバトロンとの距離を縮める。それを少し微笑むように招き入れた
ガルバトロンはナイトスクリームの頬を何度も撫でた。

甘い雰囲気だと、スカイファイヤーに思わせた。
まるで恋人同士かよ、と悪態をつく。しかしスカイファイヤーからしたら朗報が
耳に飛び込んだ。

『エネルゴングリッド復旧まで残り10分』
「…」
「ガルバトロン様!早くお逃げくだ…っ」
「黙れ」
「…しかし、ここに居ては…!」
「…わかっておる」
「私のことなどどうでも良いのです。ガルバトロン様はご自分を」
「黙れナイトスクリーム」
「…」

ナイトスクリームが顔をゆがめた。
スカイファイヤーの角度からもそれは視認できた。

「ガル、バトロンさま…!」
「…」

頬を撫でる手がやさしく動いて首の後ろへ回ると引き寄せる。
ナイトスクリームは抵抗などしなかった。
ゆっくり引き寄せられるとその唇を塞いだ。
その腕に縋るようにナイトスクリームは受け入れると小さく吐息を漏らす。

「…こいつを傷つけてみろ…殺すではすまん」

今の台詞は俺宛か?とガルバトロンを見るが
ガルバトロンの視線はずっとナイトスクリームに注がれていた。

『エネルゴングリッド復旧まで残り5分』

「…必ず助けに来るぞ」
「…ガルバトロン様…っ」
「…」

最後にもう一度だけ頬を撫でてガルバトロンは背を向けた。
走るように一度も振り向かずその場を出ていくのを見守ると
スカイファイヤーはやっと身体を動かし始めた。

「っ…つー…いって…」

ナイトスクリームを見るが鉄格子を掴んだままうなだれている。
あいつ手錠壊していきやがった。別にないと困るわけではないが
ないと何かあったときに不安だ。つけておく必要がある。

「おい、エネルゴングリッドが普及したらその鉄格子もエネルゴンを帯びるんだぞ」
「…」
「そのまま掴んでたら、火傷じゃすまねぇぜ」
「…」
「…ったく」

身体の中に隠していた鍵を取り出す。
コンボイ司令官が持っているというのは半分本当で半分嘘だ。
自分も持っている。当然だ。


鍵を開けるとうなだれるナイトスクリームの腕を鉄格子から離そうとした。
思いのほかしっかり掴んでいてすぐに引き剥がせるものではなかったが
あることを思いついてしまう。それはただの悪戯心だ。

手錠を取り出して手首に引っ掛ける。
そのまま強く引き寄せると手は鉄格子より離れた。

「なにを…!」
「逮捕しちゃうぞ…ってな」
「…」

ナイトスクリームが黙ってこちらを見た。
あ、やべ…まただ…重なって見える。
全然違う顔じゃねぇかと自分に言い聞かせた。
目の色も、体格も、声も全部。

なのに何故思い出すんだよ。

「…」

無言でもう片方の手錠をナイトスクリームの手首につけると鉄格子から離した。
そのまま何も言わず牢から出て再び鍵をかけるとエネルゴングリッドが復旧した。
ただの鉄格子が赤みを帯びてエネルゴングリッドとして働き始める。
サイバトロンは大丈夫だが、デストロンが触れれば大怪我だ。

きっとガルバトロンが出て行った時点で他のデストロンも逃げただろう。
今はその殲滅作業中なのだろうか。逃げ遅れたテラーコンたちがいるはずだ。

「…ここ直さねぇとなぁ」

ガルバトロンが歪めていった牢を見て呟く。
ナイトスクリームは座り込んだままだった。
牢は脱出できる幅じゃないからまだしも、開けていった穴は最悪だ。
できたら今日中には直しておきたい。

それにしてもガルバトロンはナイトスクリームを特別視しているとしか思えない。
そう思える行動もこの目で見た、だからどうだと言う訳じゃないが
その感情をもっと大多数へ向けられないものなのか。
大切だと思える情がまだデストロンに残っているのならどうしてそれを
他のものへ向けることが出来ないのだろうか。

スカイファイヤーは副指令として頭の切れ変えは早いほうだと自称している。
阿呆な考えは捨てろ。と頭を切り替えてナイトスクリームから離れた。


*


響く。ブレインサーキット内であの方の声が。

『…ナイトスクリーム』
『助けに来たぞ』

お優しい声だった。

『すぐに出してやる』
『ナイトスクリーム!黙っておれ』

強い意志を持っておられる声だった。

『…こいつを傷つけてみろ…殺すではすまん』
『…必ず助けに来るぞ』

大事にされていると、思わせてくれた。


身体が勝手にガルバトロン様の声を何度もリピートする。
この声があれば耐えられる。何をされても耐えていける。
きっと、身体が勝手に自分の好きな声を保存したのだ。自分のために。



『逮捕しちゃうぞ…ってな』



だから、なぜ、お前の声まで混ざっているのだ。
やめろ、うるさい。気味が悪い。


「黙ってくれ…」



ナイトスクリームは狭い牢獄の中で微かに横になった。
目を細めてガルバトロンの声だけに耳を貸すように努力する。
なのに、消えない。あいつの、あの台詞だけが酷く残っている。
助けて下さい。ガルバトロン様。





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この2体は気付かない方が幸せになれると思う(´・ω・`)

ガル様助けに参りましたがこういう「奪還物」って
一回は失敗するのが基本だと思うm9(^Д^)プギャー