スタースクリームが脱走して2週間になる。 普段はわからないが実は出来の良かった頭を使ってデストロン反応すら感知させず スタースクリームは地球にいるのかセイバートロン星にいるのかもわからず行方をくらませた。 「どうするメガトロン」 「構わん放って置け」 サウンドウェーブの問いにメガトロンは余裕の笑みで答え仕事を続けた。 あんな奴いてもいなくても一緒だと鼻で笑うメガトロンを見て 周りにいるデストロン軍団は流石メガトロンだとリーダーの器量に安心を覚えていた。 リーダーは常に余裕を持っていなければいけないものだ。リーダーの余裕は軍に安心を与えるのだから。 しかしサウンドウェーブがここでブレインスキャンをしていれば メガトロンの脳内は怒り狂い、今すぐにでもスタースクリームを引っ張って連れ歩きたい感情を 懸命に隠している事に気付けたはずなのだ。しかしその情報参謀も、周りにいたデストロンもまったく 気付くことなく流石メガトロンだとその存在を見つめていた。 ただ一体を除いて。 忠愛 スカイワープだけ、メガトロンの心情に気付いていた。 あの情報参謀も、サンダークラッカーも気付いていないのに、あのスカイワープだけは気付いていた。 怒っているのに気付き、今すぐスタースクリームを欲しがっていることに気付き それが殴りたいや仕置きをしたいではなく、「抱きたがっている」ことにも気付いた。 スタースクリームのことをメガトロンが寵愛しているのはジェットロン内では有名だし 多分今回のスタースクリーム脱走の理由もそのへんにあるんじゃねぇのかとスカイワープは予測を立てていた。 「スタースクリームの件は後回しだ。明日の襲撃に備えて皆今日は休め」 「はい」 「了解」 デストロン軍団が散り散りに寝室へ戻っていくのをスカイワープは見ていると サンダークラッカーに手を引かれた。 「戻ろうぜ」 「…先行っててくれい」 「はぁ?なんで」 「なんでもだよ。うっせぇな」 サンダークラッカーは一度むっとしたあとに手を離し「勝手にしろよ!」と 寝室に足を向けた。自分はそれを一瞥しただけでメガトロンが消えた道を見直した。 今ならまだその辺にいるだろうと少し小走りに走る。 思ったとおりメガトロンは少しばかり離れた角の先にいた。 小さく「メっ…メガトロン様」と声をかけると大帝は耳が良いようですぐに振り返ってくれた。 「スカイワープ?」 「あっあの…」 「どうした?」 メガトロン様は格好いいし、優しいし、本当にデストロン軍団を率いるに値する方だ。 サンダークラッカーはデストロン軍団のありかたなんてものに変な疑問を感じてるらしいけど 俺はこの人についていけば何も間違わないと思ってるし、頭のよくない俺にこの人は 出来る仕事を与えてくる。破壊が好きだから率先させて破壊行動に参加もさせてくれるし 疲れていれば休暇だってくれる。どこに文句があるのかしらねぇがスタースクリームは我侭だ。 「え、えとここじゃちょっと…」 「ふむ…ではついてこい」 「え?」 「寝室で聞く」 メガトロンの寝室は扉を開けて一歩しか入ったことがない。 奥まで入る理由もないから、扉が開いたら一歩だけ進んでそこで報告とか済ませてしまう。 それはスカイワープに限ったことではなくてサウンドウェーブもサンダークラッカーも 寝室の扉一歩までが入り込める部分で、それより奥は破壊大帝メガトロンのテリトリーなのだ。 だから今回もメガトロンはそのつもりだろう。 自分も、それで良かった。 寝室に訪れるとメガトロンはさっさと奥まで進み寝台にカノン砲を置いた。 そのまま背を向けて「扉を閉めろ」と促されるまま扉に手をやるとスライドするように扉は自動で閉まる。 もう一度メガトロンのほうをみるとメガトロンもこちらをちらりと見た。 「それで、どうした?」 「はい…あの、こんなこと俺が言うのもあれなんですが」 「ふむ」 「…メ、メガトロン様、今ヤりたいと思ってません…?」 「は?」 メガトロンがきょとんとするのを正面から見つめて視線を床へ降ろした。 両手をいじいじと絡めて叱られている子供のような動作を無意識にすると メガトロンを見ずにもう一度告げた。 「あっあの、スタースクリームと…!」 「…お前はどうした?何を言っておるか」 「さっきから、メガトロン様、なんか、熱っぽいと、言うか、えーと俺じゃなんて言って良いか…」 「…」 「凄く落ち着かない感じで…無理してるように」 「…よく、わかったな」 「!」 メガトロンは普通に認めた。口元に少しだけ微笑を浮かべつつも「そうだな」と頷いて 寝台に座り、カノン砲を掃除する為に布巾なんかに手を伸ばす。 「それでどうした?」 「…失礼します」 一言断って今まで入らずにいた部屋の奥に足を進ませるとメガトロンの前に立った。 メガトロンはまさか入り込んでくるとは思っていなかったのか驚いたような表情をしたが 布巾を持つその手を掴むとその指に軽く唇を触れさせた。 「お役にたちてぇんです」 「…スカイワープ」 「その、今のままじゃ明日の作戦だって支障がでるかもしんねぇですし」 「…」 「俺を使って…」 片膝をついて寝台に座るメガトロンの前に屈む。 もう一度手を掴みなおすとゆっくりと舌で舐めた。 メガトロンが目を細めて親指をゆっくり口内へ進めてくるのを 何度も音を立てて吸うとメガトロンの少し興奮した声を聞いた。 「…んっ」 「スカイワープ」 「メガ、トロン様っ…」 顔をメガトロンのほうへ向けるとメガトロンは自分を正面より見つめた。 それは自分を「スタースクリーム」ではないと確認する作業でもあったのだろう。 舐めていた指ではなくもう片方の腕で頭を撫でてくると「スカイワープ」と名を呼ばれた。 「はい…」 「…よせ」 はっきりとした否定を聞いた。 それを聞き、否定の意味をわかっていながら両手でメガトロンのアイセンサーを隠すと 落としていた腰を少し持ち上げてメガトロンの口を同じそれで塞いだ。 一度触れるとメガトロンは驚いたように一音口より漏らしたがそのままスカイワープは塞ぎ 舌は押し込まないまでも何度も音を立ててついばんだ。 「スタースクリームだと思ってくれれば」 「やめろ、スカイワープ」 「…」 舌を入れるのは幾らなんでもやりすぎだと自分を落ち着かせついばむだけにしておく。 アイセンサーを傷つけないようにそっと押し当てている手に力を込めて ゆったりと寝台にメガトロンを押し倒して行った。 やめろと否定の言葉を投げかけられ、かすかに押し返されるがその手の力は思いのほか弱く メガトロンが少しばかりその気になっているのにスカイワープは機敏に感じ取った。 「スタースクリームって呼んでくれても良いですぜ」 「…」 「メガトロン様…」 「スカイワープ」 「…」 「もう十分だ」 「…」 「礼を言うぞ」 未だアイセンサーを隠す為にあてがわれていた手を メガトロンはゆっくりとはずして微笑んだ。 怒っているのでもなく、呆れているのでもなく心より礼を言われるとそれ以上のことが出来なくなる。 「お前の心遣いは有難いが、もう十分だ」 「…」 すっかり自分の主を押し倒した状態でスカイワープは静かに息を吐いた。 メガトロンが礼を言ってくる以上自分はこれ以上望まれていないのだ。 歯をぎりっと噛み締めて目を細めるとメガトロンはかすかに笑って「そんな顔をするな」と頬を撫でてきた。 「…」 「…どうした?」 「…あんなの嘘、ですぜ」 「…」 「抱いてください」 メガトロンが静かに見つめてくる。 それを静かに見つめ返した後にすりつくように額を首元に置いて目を細めると 「スカイワープ」と声をかけられる。 その声は作戦時と同様、平坦で普通な声のはずが今の自分には凄く否定的な声に聞こえ 自分が惨めに思えた。スタースクリームと呼ぶ気はないらしい。 「一度で、いいから」 「…何故儂なのだ?」 「…あなた以外にいねぇんです…」 「お前は、どちらかというとあいつらを抱くのが趣味だと思っていたのだが?」 「っ…それと…これとは…!」 「そうか」 「…メガトロン様…」 「…」 自分の喉が猫撫で声をだした。 酷く甘えた声で主の名前を出すとメガトロンは暫く見つめてきてふっと微笑んだ。 「…どうして欲しいのだ」 「…一度で良いんで…あいつのかわりに」 「スタースクリームのかわりにか?」 「…はい」 メガトロンは暫く考えたそぶりを見せて肩を掴んできた。 メガトロンは手慣れたように身体を動かし、圧し掛かる自分を反転させると 次に見えた視界はメガトロンの背景は寝台ではなく天井へと変わっていた。 押し倒されたことを意識するとばくっと一度スパークが高鳴って自分の体が緊張した。 あっと拒否とも躊躇とも取れる声が自分から飛び出るとメガトロンは「怖いか?」と 一言だけ尋ねた。すぐに顔を左右へ振ると「そうか」と笑った。 破壊大帝は、どうやら行為中は優しいようだ。 もっと乱暴なのではと思っていたがそうでもない 押し倒された身体を壊れ物のように撫でてメガトロンは笑った。 「お前にあいつの代わりはむかん」 「できます」 「…お前は儂の大事な部下だ。優秀でスタースクリームのように裏切ったりしない」 「…俺は…っ」 「…お前は可愛いなスカイワープ」 「あの!ちゃんと聞いてっ…!」 「わかっておる」 きょとんとするとメガトロンは覆いかぶさってきて頭を撫でてきた。 頬を指の腹で撫でて細めた目にメガトロンは顔を近づけた。 「スカイワープ」 「……メガ、トロンさま」 「いいこだ…」 「…あっ…まって」 「…」 「…駄目で、す」 メガトロンは暖かかった。思いのほか暖かい装甲と、優しく触れる指が 自分をあるところへ追い立てる。それは快感や行為をするという興奮などではなかった。 かくんと一度自分の思考は途切れて落ちかけた。 しかしすぐに浮上する。一度は真っ暗になったアイセンサーが再びメガトロンを視認すると 自分は慌てて顔をメガトロンにむけて否定の言葉をはいた。 「あ…っやべっ…俺」 「いいんだぞ」 「ね、寝ちまいます…!」 そう、メガトロンの手つきは完全に自分を煽り快感を与えようとするのではなく 撫で、リズム良く身体を軽く叩き、赤子をあやすように扱ってくる。 普段入ることのない寝室の奥まで入り込み、主の寝台の上で憧れのメガトロンに押し倒されているだなんて 千載一遇というか、自分は酷く緊張しているはずなのだ。 なのに。 「めっがとろんさ、ま…」 「…」 「やめてくだ、ねちま、う」 「…ゆっくり休めスカイワープ」 「メガ…」 頭部を丁寧に撫でられて意識がぷつりと落ちた。 主の腕に縋るようにしがみ付いていた腕がずるずると寝台に落ちて ことんとスカイワープの横顔は寝台にしっかりと倒れこむとメガトロンはもう暫くの間 寝かしつけるように頬を撫で、胸元を軽く数回叩いた。 酷く焦った様子で眠るについた部下の表情を楽しんで微笑む。 「…お前は大事な部下だぞスカイワープ…」 返事はなく、メガトロンの言葉は誰にも受け止められずに空をきった。 その唇に軽く口を押し当てた後に目尻にも唇をあてた。 それはスカイワープが知ったら喜ぶ行動だったのだがスカイワープはそれを知ることはない。 * 「っ…!」 「起きたか」 「めっメガトロン様ぁ!?」 起き上がるとメガトロンはすでにカノン砲を腕につけ、身なりを整えていた。 急いで体内時計で現在の時刻を確認するが後出撃まで1時間をきっていた。 「よく寝ていたから起こさずにいたのだが」 「い、いえ!て言うかあの…俺昨日…!」 「あぁ、楽しませてもらったぞ」 えっと小さく驚いた声がもれた。 まさか眠ってる俺を?と脳内でいやな想像が走り顔をこわばらせると それに気付いたメガトロンは笑って「なんて顔をしておる」と頬に手をやってきた。 そ、そりゃメガトロン様になら何されたって構わねぇけど…でも寝てる間にやっちまうなんて…! 「ジェットロンの寝顔はいつ見ても良い」 「えっ」 「良い抱き枕だったわい」 「だ、抱き枕、ですか」 どうやら抱かれたわけではないようで少し落胆するとメガトロンは頬にやっていた手を動かして 頭を撫でてきた。そうだ、スリープ中でも何度か撫でられる心地よさを感じていた。 「準備しろスカイワープ」 「へい?」 「今回はお前に活躍してもらうぞ。儂の忠臣だからな」 「…もちろんでさぁ!」 メガトロンがうむと頷いてスカイワープを寝台より立たせた。 その後はいつも通り自室でサンダークラッカーに会い、「随分おせぇ帰りじゃねぇか」と笑われ 作戦決行することになったのだが何を思ったのかスタースクリームが作戦中に邪魔をしてきて 失敗に終わるというある意味普段通りな1日だった。 あえて言うなら、メガトロンが少しばかり嬉しそうなのは気のせいではないだろう。 「スタースクリームこい」 「えぇ!嫌です!またお仕置き…!」 「悪いようにはせん。儂の寝室にこい」 基地に帰ってきてそんな会話をする2体を自分はどんな目でみていんだか。 スタースクリームはその台詞を聞いて顔を少しばかり赤らめた。 誰にも聞かれていないだろうなと周囲を窺うがスカイワープにはきっちり聞かれている。 「なっなんで…」 「この間は焦らしおって…愚か者め」 「っ…あれはあんたがひでぇ事しようとすっから!」 「わかったわ、もう無理にはしない。だから来い」 「…」 顔をしかめるとメガトロンはスタースクリームに微笑がけた。 その笑みが自分にかけられた笑みとは違う種類のものだというのも、スカイワープは気付いてしまった。 こっそりとメガトロンがスタースクリームにキスをするのを見てスカイワープは自分の唇に触れる。 「…俺には触りもしなかったくせによ…」 メガトロンが触れたことに知りもしないスカイワープはスタースクリームに嫉妬した。 ------------------------------------------------------- スカイワープのメガ様大好きっぷりには涙がでる。 なんたって地球で最初に目が覚めたTFだしね!