珍しくも五体満足のスタースクリームがメガトロンのいない基地内でデータを見ていた。 最近の卵の成長は良い。もう暫くすれば忠実なデストロン兵士が生まれるだろう。 スタースクリームはほくそ笑むと片手にエネルゴンを取って口に含んだ。 ふと頭が痛む。ずぐっと奥のほうから痛むような重い頭痛がしたが メガトロンが生き返ってから日に日に強まるそれを気にしないようにするのも慣れたものだ。 自分のいる場所は決して自室ではない、かと言って卵たちのいる場所でもなく モニター室でもなく、誰でもくるエネルゴン貯蔵庫だ。 適当な場所に腰をかけて手のひらから小さい小型の液晶をだし、それをゆったり眺めた。 メガトロンがいない時くらいしかゆったりできないのだ。 自室にいても良いがつい先日メガトロンにめちゃくちゃにされたばかりで 到底心安らぐ場所とは言えない惨状へなってしまっている。 ギシッと軋む音がして扉が開いた。 ちらりと一瞥するとサウンドウェーブがそこにいた。 コイツも補給か。視線をすぐに液晶へ戻してそこを流れる文字を見た。 自分の座っている機械がぐらっとゆれて微かに動揺したが それを悟られるわけにもいかず、ゆれた原因を探すとそれはサウンドウェーブのもたらしたものだった。 自分の座っていた機械にもう一人客が、サウンドウェーブが座った。 「…離れろ」 「…」 サウンドウェーブは自分に背中を向けて口にエネルゴンを含んでいた。 何もここで飲む必要などないだろう。もう一度言う。 「失せろ。サウンドウェーブ」 「…」 振り返るとサウンドウェーブの両翼が放射状に動き、そこよりケーブルがでてきた。 スタースクリームの腕にぺたっとくっ付いたそれをスタースクリームは払いのけるとサウンドウェーブを睨んだ。 「…やめろ」 「…」 もう一本向かってくるのをスタースクリームは無言で左腕からブレードをだすと そのケーブルを断ち切った。コネクタの表面を一瞬で削ぎ落とすと サウンドウェーブ自身は無反応だったが別の意識を持つようにケーブルは陸に上がった魚のように 暴れだした。煩わしそうに近くのパイプを引き寄せてそのケーブルを貫きそのまま床に突き刺すと 床に縫い止められたケーブルはゆっくりと静かになった。 「…やめろと言ったはずだ」 「……」 「邪魔をするな」 サウンドウェーブはまた無言で口にエネルゴンを運んだ。 黙ってそれをみて自分が立ち去ることを決める。 「待て」 「待たない」 「…」 腕を掴まれてスタースクリームは立ち上がりかけた腰を機材の上に戻すことになった。 睨みつけてみたがサウンドウェーブは未だに違う方向を向いていて目があうことはない。 「…ケーブルを退けろ」 「…」 無言でケーブルがサウンドウェーブの中へ戻っていく。 床に貫かれたケーブルはびたんと跳ねて戻ることができず、スタースクリームが パイプを床より引き抜くと切断部分から一度オイルを零してサウンドウェーブの背中に戻って行った。 スタースクリームは手に持っていたエネルゴンを一気に喉に流し込んで 頭痛のする頭を押さえた。そうだ。こいつがいた。サウンドウェーブ。 こいつは正直わからない。自分を嫌っているのか、殺したいのか、好いているのかと思えば 身体にケーブル巻きつけてきて自分を制圧しようとしたりもする。 その男が今日は大人しく背後でエネルゴンを飲んでいるのだ。 頭が痛くなっても仕方がないというものだ。 「スタースクリーム」 「なんだ」 「メガトロンが好きか」 「はぁ?」 普段なら隠し通す表情がサウンドウェーブの前で披露された。 口を開いたまま、驚き困惑する表情を向けるとサウンドウェーブはやっとこちらをみた。 スタースクリームははっとその表情を隠して険しい顔を向けると サウンドウェーブはまた同じ言葉を繰り返した。 「好きだろう」 「お前ついにいかれたか。可哀想な奴だな」 「……お前は気付いていなくても」 「黙れ。お前はおかしい」 「…」 呆れてため息が零れる。 自分がメガトロンを好いているなど、ありえもしない妄言に付き合わされて スタースクリームは日に日に頭痛の強くなる頭を押さえた。 「どうして俺がメガトロン様を?毎日のような折檻、正直…いないほうがマシだ」 「…」 普段なら言うことのない本音を呟くとサウンドウェーブは黙ったままこちらを見つめてきた。 スタースクリームが一度サウンドウェーブを睨みつけ視線を扉へ向けるともう一度立ち上がろうとした。 しかし腰にケーブルが巻きついていた。見ると3本の太いケーブルはしっかりと巻きつき逃がす気はなさそうだ。 一本は切断されているところを見ると先ほどのだろう。 「…サウンドウェーブ。いい加減にしろ。もう仕事に戻る」 「…」 「どけ、邪魔だ。失せろ。殺すぞ」 スタースクリームが両手を刃物へ変えた。 いつぞやか、地球であの少年を捉える際に使った刃物は今でも鋭く大きく サウンドウェーブを引き裂くのにぴったりだと恍惚とした表情を浮かべた。 「スタースクリーム」 「うるさい。下手に動けば必要以上切れるぞ。じっとしているが良い」 サウンドウェーブのケーブルに当たりをつけて振り下ろすとその関節を掴まれた感覚に振り返った。 サウンドウェーブが掴んでくる。驚いたが目を細めて睨みつけるとサウンドウェーブは声を発した。 「…お前は殴られることに快感を覚えてる」 「…は?」 「メガトロンの暴力が嬉しくて仕方がない」 「…貴様…」 「しかし、優しくして欲しいと願っている」 「サウンドウェーブ!」 饒舌なサウンドウェーブは滅多に見ない。 表情のうかがえない衛生はスタースクリームの顔に至近距離まで近づくと更に続けた。 スタースクリームの両腕の刃物は今すぐにでも動かせる。 ケーブルだけといわず、コイツ自身真っ二つにするのも面白いかもしれない。 「お前は自分で気付いていないだけだ」 「…殺してやる…」 「俺なら、望みを叶えてやれる」 頭痛が悪化した気がする。 その言葉にスタースクリームはらしくもなくたじろいでいた。 あのメガトロンに影響できる者などいない、それなのにあの男の正確を優しくできるとでも言うのだろうか。 別に優しくして欲しいなど、思ったことはない。スタースクリームは破壊を好む。 自分へと向く破壊は嫌だがメガトロンの破壊衝動は破壊大帝ならではのものだ。見ていてすっきりする。 「…どうやってだ」 「…」 ずきっと刺されたような痛みが走った。 腰を見ると3本中、2本が腰へと突き刺さり白い線を侵食するように根を張っていた。 「っ、きさま…!」 「…」 「これが狙いか…」 左腕の刃物を回転させて威力を増すとそれをサウンドウェーブへ振りかざした。 響く音がしてサウンドウェーブの頭部にある装甲が擦り切れたが 装甲を削りとるだけですんだ。それを見てもう一度スタースクリームは刃物の回転を増した。 ついこの間、サウンドウェーブがケーブルを伸ばして来た時は背中の立派な両翼を 削ぎ落としてやったのだがそれをメガトロンにばれて折檻された。 「大事な戦力を削ぐようなことをするな」と言うがならば自分を壊す貴方はどうなのだ。 口をふさがれ、悲鳴が漏れないようにして殴られた。頭部の装甲が割れるほどに。 回転を増す刃物が急激に回転数を減らした。 はっと腕を見ると刃物はゆったりと回転するスピードを落としてすぐに沈黙した。 「な…」 自分の意思で動かなくなったそれを暫く眺めてすぐに気付く。 ハッキングされた。自分の体内を調べるとすでに半分、コイツの支配下に移っている。 何とかしようと自分の意識を強く持たせ、サウンドウェーブを追い出そうとする。 「ぐっああ!!」 自分の動きに気付いたサウンドウェーブが一気に支配力を強めて白い線を キャノピーにまでたどり着かせる。 自分の意識がおぼろげになりかけて悲鳴をあげるとその線はますます 動き回り、スタースクリームの顔の上を這った。 「…そろそろだ」 「…は、ああ、あ…」 脳が蝕まれ始める。口を開いて呻くとその口の中にまで入り込んできて 自分に残っているのはいまや思考のみになった。後は指先が微かに動く程度か。 「スタースクリーム」 「…あ、…?」 「スタースクリーム…」 「…メ、ガトロン…?」 サウンドウェーブが一瞬のうちにメガトロンに変わった。 「…メガトロン…様…?」 「あぁ。スタースクリーム」 「…閣下…」 何故だ?深く考えることができないが 体に残る倦怠感はまだサウンドウェーブが自分を支配下においている証拠だ。 では、何故メガトロンがここにいる。今は、いないはず。 「スタースクリーム…」 頬にメガトロンの鋭い指が動いた。殴られると身体が反射的に防衛しようとするが それも動かない。頭がくらくらする。 「…スタースクリーム…こっちを見ろ」 顔をあげるとメガトロンがいた。 メガトロンは普段の顔ではなく微笑んでいた。 「…え?」 「…いつも、よくやってくれているな…」 これはメガトロンではない。 こんなことを、メガトロンは言わない。 『…そろそろだ』 サウンドウェーブだ。 サウンドウェーブは以前地球での戦闘で援軍が来ないように衛星を乗っ取り 人間達に嘘の映像を流して見せた。それの応用だろう。 しかし頬にふれた感触は本物だ。サウンドウェーブの動きにあわせて スタースクリームの脳内にメガトロンを映し出しているのだろう。 朦朧とした頭でもそこまで考えられた。 「サ、ウンドウェーブ…!」 「何をいっている。スタースクリーム?」 「うるさい…!偽者め!」 メガトロンの腕がスタースクリームの顔を強く打った。 痛みにスタースクリームが呻くとメガトロンはその殴るために使った手をすぐに 優しげなものへ変えて殴りつけた頬を撫でた。 「…スタースクリーム…愚かな奴め…大人しくしているのだ」 「はっ…は…い…」 声がメガトロンのものだ。手も、動き全てが似ている。 しかしそれは自分の脳を手中に収めたサウンドウェーブが見せている幻だ。 しかし両頬を掴まれてアイセンサーを覗き込んでくるその身体はまさにメガトロンだ。 身体が震えてメガトロンへの忠誠を誓い始める。 「閣下…閣下…」 「…あぁ、いい子だ」 「違う…貴方は…」 「いい子だ…可愛いスタースクリーム」 「やめて…!いやだ…!」 頭を撫でる手、優しげなメガトロン。恐ろしい。なんと恐ろしい。 メガトロンの口がアイセンサーにあたる。そのまま食い殺されると思っても メガトロンは撫でてくるだけだ。 「や、優しく、しないで…」 「何故だ?スタースクリーム。褒めてやっているのだ」 「やめて…!やめて…やめ、て…」 「大丈夫だ…スタースクリーム…」 メガトロンの右腕が開くとその手は自分の手に絡んだ。 メガトロンのその右手から今すぐ発砲されるのではないかと思ってもそれはない。 ただただ優しく触れてくるだけだった。 頭痛が触れてくる指で解かされていくように和らぎ身体がメガトロンのほうへ倒れこんで行く。 今は心より望んでいる。 殴って欲しい。痛めつけて罵って欲しい。 「メガトロン様…やめてっ…下さい…」 嫌いだ。メガトロン。嫌いなどと言う言葉では言い表すこともできないほどに。 だから優しくしないでくれ。 基地内をうろつく一体のドローンだけが サウンドウェーブが大事そうにスタースクリームに触れ、愛しいもののようにキスをして スタースクリームがうわ言のように「閣下」と呟くのを聞いていた。 -------------------------------------------------------- メガ←スタ前提。音波スタ。 メガ様のフリをする音波さんは懸命にはぁはぁ言うのを堪えるのであった!!!!! そろそろメガスタにも進展があっても良さそうなものだ。