「…お」 スタースクリームは一つ音を落とした。 メインルームに行く道のりにある電光掲示板に当番が記されていた。 デストロンの仕事は大抵ローテーションしていて 作戦の主要メンバーやら、基地内での居残り、監視、などが適当に割り振られる。 メガトロンが決めているんだか、実はくじで決めているんだかまでは知らないが 一応、実戦には参謀がついて行く決まり以外はこの掲示板に記される仕事をする。 スタースクリームのここ一週間の仕事は 「実戦、実戦、兵器製造、実戦、裏切り、休み、実戦」である。 裏切った日は確か解析の仕事が入っていた気がするが前の日の実戦での 責任をメガトロンに擦り付けられての裏切りである。次の日の休みは本当は仕事が入っていたが 裏切りへの仕置きとして大怪我をおって休むほかなかったためだ。 「今日は基地内監視か…」 実戦続きだったから休めて良いな、と顎に手をあてて掲示板を眺めた。 電光掲示板は5秒ごとに表示するページを変えていく、既に自分に関係する内容はないのだが ぼんやりと眺めてジェットロンやらカセットロンやらの仕事も確認する。 基地内監視が自分だけなのか、誰かと組むのか確認したいのが理由である。 ジェットロンは資材調達。カセットロンは半分はジェットロンの手伝いでコンドルとランブルだけ 諜報活動か。あ、トリプルチェンジャーはセイバートロン行きか。大変だなぁおい。関係ねぇけど。 「お」 またスタースクリームが言葉を落とした。そしてにやっと笑う。 それを確認し終えるとスタースクリームは電光掲示板の前を去った。 後数秒で切り替わるページには「サウンドウェーブ。基地内監視」と表示されていた。 * 「よー」 「……」 少し遅れてスタースクリームはやってきた。 サウンドウェーブはすでに仕事を始めていて一度こちらを見るとそのまま仕事を始めた。 基地内監視は普通的には2体体制で、メインルームとはまた別の部屋に位置している。 基地にサイバトロンの進入がないか。デストロンを裏切るような奴は居ないか。などの監視だ。 メインルームでも基地内を見渡すことはできるがここ、監視専用の部屋には適わない。 取得できる情報も見渡せるカメラの台数もこちらの方が多く、新しく入ったデストロンには 部屋の存在すら教えていない。基本的にジェットロン、カセットロンでのローテーションだ。 しかしスタースクリームとサウンドウェーブが被ることは滅多になかった。 「久しぶりじゃねぇか。監視」 「…あぁ」 「俺らどっちも参謀だからなぁ、暇ねぇと監視なんて楽な仕事やらしてくんねぇぜ」 部屋はそんなに広くはない。 壁一面の大型モニターを数分割して、それを機器で拡大してみたりカメラの場所を変えてみたり 内容を保存したりするだけでそこは4体は入れないほどの狭い空間だった。 用意された椅子にスタースクリームは座った。 椅子も狭い室内では仕方がないが、2体の距離は限りなく近い。 肘同士がぶつかるほどに近く、しかしお互いそれには慣れていた。 「…」 サウンドウェーブは先ほどから口数少ないが無言でカセット部分を開くと そこから何も入っていないエネルゴンキューブとエネルゴンがたぷんとゆれるボトルをいくつか取り出した。 「お前どこにいれてんだよ…」 そういいつつも自分のキャノピーを開いてエネルゴン菓子をいくつか出す。 それをお互いの目の前にある机のスペースに全て並べると 相手のものも自分のものも関係なしに手を伸ばして飲み食いを始めた。 メガトロンも知っているだろう。黙認という形でだが。 ジェットロン同士で組んだ時もこうやって食い物飲み物持ってくるし カセットロン部隊ともだし、あのサウンドウェーブですらだ。 監視は何もなければ暇だ。それを飲み物食い物で紛らわせるのは悪いことではないだろう。 更に言うなら、まぁ、ジェットロンのも好きなんだけどサウンドウェーブの持ってくるエネルゴンは最高だ。 濃度が俺にあってる。味が良い。何より匂いが良い。 前に、一度だけ聞いてみた。 「これ、どうやって作ってるんだ?」 サウンドウェーブは質問に対して具体的な答えは返さなかったが 「自室で熟成させてる」と答え、更に「お前にしか飲ませていない」と告げてきた。 これには自分も嬉しくなるもんだ。へぇへぇ。俺様限定か。いいじゃねぇかそれ。 と、言うことで自分もジェットロンと食べる時よりも少し良い菓子なんか持ってきたりする。 同機より良い菓子持ってきてるんだぞ。この俺様が。それをサウンドウェーブに言うと暫く黙ってから 「そうか」といつものように呟いて菓子を齧ったのを覚えている。 空のキューブに手をかけるとサウンドウェーブがボトルを掴んでキューブに注いできた。 半分より少し上まで注がれると一気に喉に流した。 「ぷはー!!」 「…」 「うまい!やっぱうめぇなこれー!」 「そうか」 「あぁ!おら、貸せよ」 ボトルを受け取るとキューブを持たせて注いでやった。 サウンドウェーブはそれを数口、口に含んで残りは机に置いた。 「今日はなんだ」 「セイバートロン星限定の菓子と、複数のエネルゴンを混ぜた手作りだぜ」 菓子を広げて置くとサウンドウェーブがそれに手を伸ばした。 先に手作りの方を取って口に運ぶと無言で租借した。 自分はその間にもう一杯キューブに注ぎ飲み始めていた。どうしてもこの味だけは止められない。 「…うまい」 「だろ。調理法凝ってるからな。俺は」 セイバートロン星の菓子にも手を伸ばし食べ始める。 しかし一つ口入れてまた手作りの方に手を伸ばした。 「?」 「…」 「…?まずかったか?」 「いや」 キューブを置いてセイバートロン星の菓子を口に入れる。 エネルゴンなのにさくさくしていて食べた瞬間エネルゴンが口に広がる。美味い、よなぁ? 「こっちのほうが口に合う」 「…へぇ?じゃ、それ全部やるよ」 空になったサウンドウェーブのキューブにもう一度ボトルから注ぎ、自分のにも注いだ。 それからは互いにちょっと話したり無言になったりしながら監視を続けた。 その間時々肘がぶつかったりする。もう慣れたものだ。 ちょっとした異常があればそれを保存するために席を立ってすぐ横にある棚にメモリースティックや 紙媒体で文書を書いたりする。そうして動くたびにぶつかるのだ。 「スタースクリーム」 「んー?」 「メモリを取れ」 「あーはいはい」 メモリースティックはスタースクリーム側に近い。 わざわざ狭いこの場所でサウンドウェーブが立ち上がりスタースクリームと壁の隙間を もそもそと通って棚を漁りまた戻ってくるのは時間の無駄でもあるしスタースクリーム的にも邪魔だ。 立ち上がり棚を漁りスティックをひとつとるとサウンドウェーブの方へ歩いた。 「ほいよ」 「…」 スタースクリームはこの時だけ、少し寛容になる。 それは美味い酒が飲めるからというのもあるだろう。 サウンドウェーブがどんなに無言でも、命令口調でもあまり気にならない。 「…ん?どうした?」 「…いや」 「…?」 「…」 「なんだよ。さっきからちらちら見やがって」 サウンドウェーブを見ながら自分の座っていた椅子の方へ手を伸ばした。 椅子が見つからずサウンドウェーブを見たまま手を右往左往させて コツンと指先が触れたものを引き寄せて座ろうとした。 よそ見していたのが悪かったのだが椅子の足に自分の足がぶつかり「いてっ」と声をだすのと 状態を少し崩したのは同時だった。 転ぶほどではなかったのだがサウンドウェーブのほうに微かに体が傾いた。 「っ…いって…!だー、本当せめぇんだよこのスペース」 「…」 「あ、わりぃな。すぐどく」 よろめいてサウンドウェーブの椅子に座る膝に座るような形で状態を落ち着かせているのに気付いて 立ち上がろうとするとサウンドウェーブが腰に手を回しているに気付いた。 「おい、腰」 「…」 一言指摘するとその腕はすぐにどいた。 どうせ危ないから一時的に回してくれたのだろうがそこまで心配するようなことでもない。 こんな狭さだ。仕方がないもんだ。 ジェットロン同士の時なんてお互いの脚同士がぶつかって絡んで転んだりする。 そう言う時は「俺ら脚長いから仕方ねぇな」「脚なげぇもんな」で笑ったりするしよ。 「大丈夫か」 「なんだ?随分心配性じゃねぇか。問題ねぇよ」 「…気をつけろ」 「あぁ、悪かったな。圧し掛かってよ」 「問題ない」 暫く見詰め合うとサウンドウェーブが手を伸ばしてきた。 「んっ」と声を漏らして少しばかり恥ずかしくなる。何声だしてんだ俺は。 指で口の周りを触られて、その撫で方が凄く気持ちよかった事もあり目を細めた。 なんだ?なんで、こんな雰囲気に、なって。 互いに無言で、膝の上に座った自分の口を愛しいもののように拭うサウンドウェーブ。 気持ち悪いな俺らとスタースクリームが立ち上がろうとした。 「待て」 「な、んだよ」 「エネルゴンがついてる」 「っ…は、早く拭えよ!」 「いまやってる」 もう数回撫でるように触れられるとサウンドウェーブは「いいぞ」と告げた。 席にもどって少しばかり早くなった脈に気付く。 だから、俺とサウンドウェーブはただの参謀仲間だ。関係ない。 仕事中だからと酔わない程度のエネルゴン酒だったがちょっと飲みすぎたのかもしれない。 そうやって何とか自分を誤魔化した。 * 「もう終わりだな」 「あぁ」 時間を確認して丸一日そこに居たのがわかる。 自分はぼへーっと眺めていただけだがサウンドウェーブは時々内容を コンピューターに打ち込んでメガトロンに報告をしているようだった。 「…じゃ、また仕事一緒になったらよろしくな。エネルゴン」 「あぁ」 サウンドウェーブの後姿を一度見てそこをでた。 明日の仕事はなんだろうか。 また、すぐにこいつと一緒なら良いんだけどよ、とスタースクリームは思った。 それがエネルゴンに釣られたのではなく、感情から来ていることに気付かないフリをして。 ---------------------------------------------------- 音波サンクラではできないのは この同僚っぷりだと思う。スタスクは音波を頼れる存在認識。 音波さんは笑わせてくれる航空参謀認識。どっちもほとんど同じ地位だからね! 音波さんは初代アニメでスタスクが転んだり失敗したりすると爆笑するところが可愛い過ぎると思う。