ごみ箱





頭上から自分にかけられる声がする。
破壊大帝はその声を聴覚で拾い、スリープモードからの起動を開始した。

「寝起きの悪い方が破壊大帝などと…やっぱりニューリーダーにはこの俺様が…」

あぁ…朝からむかつく奴の声を聞くことになろうとは…
昨日の夜はあんなにも可愛げがあったものを。
スリープ状態からの起動は時間がかかり、聴覚、視覚センサーが鈍くなる
傾向だあるが昨日の夜のことを鮮明に思い出すのは容易く、スタースクリームの
表情、言動を思い出す。

そのスタースクリームが今、寝台の脇に立っているのはわかった、。
視覚センサーで確認せずともわかる。このシルエット。
返す言葉もないほどの暴言。

「こっの…愚か者め…!」


低濃度エネルゴン


スリープモードから完全に起動するまでの間遊んでやろうと
近くにあった腕を引き寄せ、自分の上に覆いかぶさる様に倒れて来た頭を
腕でしっかり固定した。

「ぶっ…!んっ…んーん!」
「この愚か者めが…貴様には直々に叩き込んでおかねばな…」
「んんっ!」

顔を胸元に押しつけている為、何を言っているか聞き取れない。
まだスリープモードからの意識移行が完了しないため
目がぼやけてスタースクリームがどんな顔をしているかわからないが
きっとまた怒りと照れを綯い交ぜにした顔だろう。
この目に収められないのが残念だ。

ぼんやりしていると口は無駄だと判断したのか両腕で
身体を引き離そうとジタバタもがき始める。
鬱陶しくなって来たので片手で器用に両手首を引き寄せて拘束し
もう片方の手で首を掴むと小さい悲鳴があがった。

そのまま胸元にこすりつけて居た頭を持ち上げて
自分の顔近くまで嫌がる身体を寄せた。

「めっ…メガトっ…!様…!」
「黙れスタースクリーム」

舌を口内に押し込むと一瞬身体が竦みあがり、硬直する。
拘束した腕が震え、弾ける様にいっそう抵抗が増した。
逃げる舌を追いかけて絡め吸い上げる。時々漏れる喘ぎが良い目覚ましになった。
あぁ、やっとスリープモードからの復帰が終わったな。

光を捕らえやすくなった瞳。
聞き取りやすい聴覚。
舌の感覚も冴え渡って来た。

…………ん……?

舌先に感じる違和感がきっかけ。喘ぎ声にも違和感。
なんだ?何か引っ掛かる、そうだ。口内に広がるエネルゴンの味が違う。
スタースクリームめ…今日の朝食は随分と低濃度のエネルゴンを摂取したのか?
口の端から漏れる喘ぎ声がいつもよりも悲鳴がかっている。

眠気から覚めた目を開き一番最初に目に入ったのは紫。


「……!?」
「んっ…!はっ…」
「…スカイワープ」
「……メガ…ト…ロンっさ…ま」

掴んでいた両手首を放し、両手で肩を押し返してやっと今まで
誰と勘違いし誰と行為してしまっていたか気付いた。

スカイワープは酷く混乱した様子だった。
メガトロンに跨がり、軽く身体を震わせ、行き場のない両手を
メガトロンの胸元にだらしなく、しなだらせたままだ。
顔を見るといつものスカイワープを知って居る者なら驚くほど動揺している。
目が冷却液で潤み、今にも零れそうだ。いっそ零したらどうだと言いたくなる。
頬が熱を持って、少し開いた口からオイルが漏れている。

悪い事をしてしまった。破壊大帝は部下に謝罪を述べようとしたが
きっとこの部下はそれを望まないだろう。
こいつの望む破壊大帝は畏怖を放つ存在でなくてはならん。

少し震える唇を指でなぞると一度大きく身体を硬直させた。
口元で光る互いのオイルを拭い、目からこぼれそうになっている
冷却液を指で拭った。
小さく開いた口からもう一度か細く名前を呼ぶ声がする。

「起こしにきたのか…スカイワープ」
「…へ、へい…その…起きなかった…んで…」
「スタースクリームの真似事をしたのか?」

最初に聞き取った言葉は確かニューリーダー発言だった。
起きないことに苛立ってスタースクリームの真似をしたのか
それともスタースクリームならメガトロンを起こせると
思ったのか定かではないが。

「…す、すいませ」
「謝るな。スカイワープ。よく起こしに来た」

腰の上に乗る紫の機体を撫でるとスカイワープは身体を震わせた。
もう一度その瞳を覗き込むと少し赤くなった目元が未だに違和感を感じるが
いつものスカイワープと遜色ない。
まったく、ジェットロンはどいつもこいつも切り替えが早いと言うか…

「今日は兵器のテストをする予定だったな」
「あ、そうでさぁ。兵器をスタースクリームが持ち出して…」
「何?あの大馬鹿者め…また何かしでかす気か…」

スカイワープは腰の上から退いて傍らに立った。
ついで立ち上がると破壊大帝は反乱を起こそうと考えているだろう反逆者への
罰を考え始める。

「まったく…あのスタースクリームめ…どうしてくれようか…」

既に脳内にスカイワープとの出来事は消去されつつあった。
だがスカイワープのブレインサーキットはまだ半分以上が混乱で活動に異常を
きたしている状態だった。

自分、スカイワープは馬鹿だからブレインサーキットの回転数が遅いと
自覚している。スタースクリームと間違えて、破壊大帝はあんな行動に出た。
その意図が自分は掴めない。ただ単に嫌がらせだろうか?
嫌がらせにしては絡んできた舌が優しげで、慣れた動きだった。

それ以上考えるなとサーキットが活動を阻止する。
今までの考えから発生する答えがとてもじゃないが想像できない物だからだ。
まさか、スタースクリームとメガトロン様が
駄目だ。ブレインサーキットが負荷をかけないために考えないように
ストップをかける。

ブレインサーキットに従って脳内の話題を少し変える。
舌に混じった高級なエネルゴンの味と匂い。凄く良い匂いだった。
スタースクリームの飲むエネルゴンよりも高級だ。
あ、そーいや、最近高濃度のエネルゴンのんでねーな。
たまには贅沢していいモン飲みてぇなー。


「スカイワープ」
「へっ?へい。なんでさぁ。メガトロン様」
「今日お前の寝室に高濃度のエネルゴンを届けといてやる」
「え?」
「あまり低濃度の物ばかり口にしていると火力が落ちるぞ」
「は…ぁ…」


お前は大事な戦力だ。火力、スピードが落ちては困る。
低濃度エネルゴンは能力低下にも繋がるぞ。ワープが出来なくなっもいいのか?
と肩を叩かれた。
自分とメガトロンの考えていたことが微かにリンクしていてすぐ判断
できなかったがメガトロンもまた、自分の舌を存分に味わっていたのだと
気付くのはまた後になる。


*



「……何これ?」
「あ、お前さんも飲むか?サンダークラッカー」
「…すっげぇ高濃度高級エネルゴンじゃねぇか!…盗んできたのか?」
「バッカ言うんじゃねぇやい。メガトロン様から直々に頂いたんだよ」
「なんで?」
「…なんでだっけ?」


幸か不幸か、難しい考えは勝手に削除していくブレインサーキットのおかげで
スカイワープの知恵熱およびヒューズが飛ぶことは滅多になかった。


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難しいことは全部そっちのけスカワ。
可愛いよ!スカワ!ふと思い出してサンクラに
「そーいやこんなことがね!」言ったら
難しく考えすぎてヒューズ飛ぶのはサンクラ。