ごみ箱




メガトロンの声が通信機から聞こえる。適当な受け答えをしつつも
草むらを歩いていた。
ざくざくと足首くらいまでの高さの草を足で払いながら歩く。
飛んでも良かったがそんな気分じゃなかった。

『聞いておるのか!』
「はいはい。次の作戦ですね。わかってますって」

今日はそんな気分じゃねぇんだって。そんな日だってあるだろ。
草をかきわけて座り込む。


「今から作戦決行地点に向かいますよー」
『早く来い!大馬鹿者め!』

通信機の電源を切りつつ横になった。


壁と初対面


大喧嘩だった。口喧嘩ですまなかった。
研究員同士で口論になることは多いが殴りあうことは滅多にない。

同じチームの奴で、ちょっと研究期間について揉めただけだった。
それがヒートアップしてくるうちにお互いつい手が出たのだ。
どっちから手が出ただなんて忘れた。同時だったような、俺からだったような。


「あいつが悪い…!」


謝ってたまるか。俺は悪くねぇんだし。
相手の顔をぼこぼこにした、俺の顔も普段の魅力よりは下がってる。
頬にすれた傷があって、所々痛むところを見るとリペアが必要だろう。
自分より酷い怪我のあいつはどうなっただろうか、同チームの、喧嘩に割って
入れなかった奴らが担ぎ込んでいくのを横目で見たのを覚えている。

スタースクリームは廊下をつきすすみ、窓から人工芝の上に飛び降りた。

「…知るか」


研究所では研究所内に人工芝が植えつけられた庭のようなものがある。
滅多に外にでれない奴の為に用意された、人口的な緑と天井を空色に塗った
ちょっとしたリフレッシュルームみたいなものだ。
自分はあまりここを利用しない。そんなに植物と空を味わいたいのなら
本物が良いではないか、偽者なんていらない。

それでも滅多に利用しない人工芝に座ってぼーっとする。
馬鹿馬鹿しいとは思うがこれからの事を考えると面倒臭かった。
この研究データはなかったことになるかもしれねぇ、面倒だ。
そうなると新しくチームを集めて。
…駄目だな、この騒ぎで新しくチーム編成なんて許可も降りなきゃ、同志を
募ることすらできないだろう。

「…くっそ」

今更殴ったことを後悔するなんて自分らしくもねぇ。

頭の後ろに手をやるとすぐ後ろに壁があるのを感じた。
丁度良いと思ってそのまま寄りかかる。全体重を壁にかけて人工的な
空を見上げた。
あそこまで飛んでも実際に空を突き抜ける感覚は味わえないだろう。
高く上って行けば空色の壁にぶつかって落ちるだけだ。

「…」

面倒臭くなってアイセンサーの出力を下げていく。
完全に真っ暗になったのを確認して小さくため息を吐いた。

「悪かった…」

誰もいないことを確認して誰にも聞こえないように呟いた。



*



気持ち良い。額がひんやりする。
アイセンサーの出力を戻しながら自分がどれだけの間スリープしていたか
確認する。…5時間?もっと寝ていたような、そんなに眠っていないような
変わった感覚に苛まれるがアイセンサーの出力を完全に元に戻して
人工的な緑と空色を視界に捕らえた。
それと、黒い手。……手…?

「あ、すまない…起こしてしまったね」
「…だ、誰だ…っ…お前…!」

額と頬に黒い手を添えられる。
その手の主は自分の後ろに座っていた。後ろから伸びてきた手の冷たさに
頬に走る傷跡は喜んだが、自分の頭は驚きで満ちていた。誰だ?こいつ。

「傷が酷いから…リペアしなくても良いのかなって…」
「い、いつから居やがった!どけ!」
「いつからって…私はずっといたけど…」

そのずっとが何時からかを聞いてるんだよ!天井を見上げるような形で
上を見上げるとやっとそいつの顔が見えた。
真っ白を基準として、所々青い、何より目の中の青が印象的な男だ。でかい。

「ずっとだ?俺は壁に寄りかかって…」
「…うん」

きょろきょろと辺りを見回すと何もない。人工芝だけだ。
俺の寄りかかってた壁が見当たらない。腕を頭の後ろで組んで
寄り掛かったところに丁度あった壁はどこにいった?
もう一度きょろきょろと見回す。
くすっと笑われて再度天井を見上げると人の良さそうな男は口に手を
当てて笑っていた。


「すまない。君が私を壁と間違えていたのは気付いていたんだけどね」
「…な」
「悪いと思っているなら謝ってきたらどうかな」
「…」
「そんなに驚かないでくれ。私は慣れてるから大丈夫だよ」

自分は多分間抜け面しているだろう、口が開きっぱなしで閉まらない。
男はまた少しだけ笑った後に優しそうな顔で微笑んだ。


「私はスカイファイアー。謝ってきたらリペアしてあげるよ」


傷口に触れる指先を払いのけて立ちあがり、逃げるように近くの窓に飛び込んだ。
今覚えば馬鹿でかいアイツを視界に捉えられなかったのは自分の頭が
冷静ではなかった良い証拠だ。
馬鹿でかいあいつとの初対面は最高とも最悪とも言いがたいものになった。



*



「……ん」

意識せずアイセンサーの出力が戻ってきた。寝てた。
こりゃぁメガトロンに怒られるな。何時だったっけ。作戦決行。

体内時計を調べると先ほどの通信より5時間経過していた。
通信機は電源を落としていたのでメガトロンの怒鳴り声は聞かずにすんだが
通信機に再度電源を入れれば間違いなく文句・小言・怒鳴り声の3つが
瞬時に通信機を通して自分の元へ届くだろう。


「…あ?」


スタースクリームは異変に気付いた。
本物の地球製の草原に横になっていたのだが背中に壁を感じた。
俺は確かに横になってスリープに落ちてしまっていたはず。

まさかと思って本物の青空を見上げる。


「おはようスタースクリーム」
「……よう」
「メガトロン。凄く怒っていたよ」
「今それを考えてるとこだ、黙ってろ」


スカイファイアーは笑った。
道理であんな夢見るわけだ。あんな昔の夢。何千万年昔の夢だってんだ。
立ち上がろうとすると背後から冷たい指先が頬に触れてきた。
傷も何もない頬を触れる指を甘んじて受ける。
小さい声でスカイファイアーが「君が寝ていたから壁になってあげようかなと
思って」なんて笑いかけてくる。
道理で寝心地よかったはずだ。こんなに長い間寝ちまうなんて。


「メガトロン相手にどうするんだい?」
「…逃げる」
「謝らないんだ。君らしいね」


あの日も結局謝らなかったし。と付け加えられてスカイファイアーを睨みつける。

「何千万年前の話だ」
「さぁ?いつだろうね」
「…帰る」
「メガトロンの元へ?」
「あぁ」

立ち上がって草の臭いを払いのける。
人工芝じゃない分、青臭いのが気になるが人工芝よりはいくらかマシだ。
スカイファイアーを睨んで「じゃあな」と一声かける。


「謝ってきたらキスしてあげようか」
「…」
「冗談だよ」
「くたばりやがれ」


笑うスカイファイアーに軽い蹴りをいれながら少しだけ宙に浮く。
スカイファイアーは地面を離れたスタースクリームを見て自分も
立ち上がると足についた草を払いのけていた。

地面を離れ宙に浮いた身体はスカイファイアーの顔より自分の顔の高さの方が
僅かに高かった。
下にたれた手をぎゅっと握られて指先に軽いキスをされる。

「さよならスタースクリーム」
「…あぁ。じゃあな」

俺はメガトロンに謝らないし、お前の所にも来ない。
だからお前にキスされることはないだろう。

それでもあの日、謝らなかった俺の顔をこいつはリペアしてくれた。




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30分くらいで書いた小説、いろいろ粗が酷いぜ!
トイ並べたらスカファの腰の位置にスタスクの顔があってびびった話。

こいつら(特にスカファは)お互いの位置ちゃんと把握してなさそう。
ごつん「あ、スタースクリーム居たのかい?ごめんね」「…あぁ」
がつん「あ、スタースク」「お前ぶん殴るぞ」って毎日だったら幸せだw