指に触れるより口へ。 話すよりも口へ。 抱きしめるよりも口へ。 同じ部屋にずっと一緒にいるより君に、 キスを。 「キ、キス?」 サウンドウェーブはサンダークラッカーを呼び止めると催促した。 寒色の2体が付き合い始めたのは地球で目が覚めてから少しの月日を経過した頃で 彼らの寿命からすればまだまだ付き合いの浅い、付き合い始めと言っていい恋人 同士だった。 サウンドウェーブは見た目に寄らず、かなり本能に忠実に動く性質だ。好きだと 思ったら自分のものにしたいし、触れたいと思ったら触れる。 しかしサンダークラッカーの方はそうではなかった、本能に忠実に動くことなど ほとんどなく、いつもどこかでストッパーを働かせてしまう。 それどころかサウンドウェーブに流されるように付き合い始めたと周りからは 認知されていた。サウンドウェーブが無理強いするから付き合っているのだと 思われている。 それも仕方がない話だった。サウンドウェーブから触れることはあれど サンダークラッカーから触れたことはほぼなかったのだから。 「な、なんで急に?」 「…してくれ」 「キス?キスを?あの、口で、あんたの口を?」 「そうだ」 「…」 サンダークラッカーは暫く考える素振りをした後に頬を赤く染めた。 「サンダークラッカー」と低い声を投げかけるとアイセンサーを細めて 「うぅ〜」と唸るばかりである。 「…俺から?」 「そうだ」 「…んんん〜…」 片手指を唇に当てて隠すような仕草を見せるとサウンドウェーブはその手を 剥がしてしまいたい気持ちになった、口を隠す手を奪い、押さえ、舌をねじ込んで 足腰立たないようにしてしまいたい。 大体サウンドウェーブは今日まで散々我慢してきた、周りからは無理強いだ、強制だ と言われていてもサンダークラッカーが嫌がれば無理に押し切ったことはない。 今日まで接続はおろか、同じ部屋で一晩過ごすことすら拒否されているのだから。 「…キス…」 「…」 サウンドウェーブは耐えた、同じ部屋で長時間過ごすのが怖いと思われているのは 承知の上だ、何もしないと言っても寝台にサンダークラッカーは腰掛けない。 キスさせてくれと頼めばようやく頭を縦に振ってくれる。その程度。 だから言い切れる、自分は無理強いではなく、サンダークラッカーの意思を尊重した 上で恋人と言う地位を会得しているのだ。 「…嫌か」 「…ちょっと、その」 「…」 「い、嫌って言うかな、は、恥ずかしくて、よ」 「…」 あぁ、キスしたいキスしたい、押し倒して唇からどこから全て接続して喘がして 泣かせて、気持ちいいと言わせて。それで。 「…あっ」 「…?」 「ラジカセになら」 「…」 心外だ。 しかしサウンドウェーブは無言でトランスフォームすると床にコテンと倒れこんだ。 青色のラジカセは何も喋らず急かさず、サンダークラッカーが動くのを待ち続けた。 「…それじゃ」 サンダークラッカーはゆっくりしゃがみ込むと両手で大事なもののように持ち上げた。 サンダークラッカーの顔がサウンドウェーブの胸に当たるカセット部分に映りこみ 鏡のようにその表情を映し出すとサンダークラッカーは情けなくも頬を赤くする 自分に気付いてふっと笑った。 一度咳をして仕切りなおす。 「失礼します」 サンダークラッカーの口が自分のインシグニアに触れた。 そこは口じゃない、だとか。 もっと強く触れろ、だとか。 言いたいことは色々ある。 しかしそれ以上に普段触れているはずのサンダークラッカーの口がほのかに温かく それでいて緊張しているのか鉄の指先はいつも以上に冷え切っていた。 片膝を床へついたサンダークラッカーが、床に落ちていたラジカセを自ら拾い上げ 光るインシグニアに唇を落とす。 他の連中に見せてやりたい、サンダークラッカーは決して俺を嫌いじゃない。 トランスフォームしたい。 サウンドウェーブの胸にその願望が湧くとそれは行動に移されてしまった。 「うっわ…!」 「…っ…」 「サ、サウンドウェーブ…!」 「…悪い」 手の中のラジカセが自分よりも大きくなるという奇妙な体験はサンダークラッカー くらいにしか起こり得ないだろう。 大きくなったラジカセは赤いバイザーと、マスクを装着した状態で転んだサンダー クラッカーを床へと組み敷いた。 サンダークラッカーは大きく目を見開いて驚きのあまり硬直している、ゆっくりと キャノピーの上へ手を乗せればスパークの脈動が強く聞こえてきた。 「…」 マスクをスライドさせるとサウンドウェーブはサンダークラッカーに顔を寄せた。 「…触れる」 「…えっ…あ」 「…サンダークラッカー」 「…ん」 頷いたサンダークラッカーにキス以外の事もしたくなる。 しかし我慢した、折角付き合ってくれと言う言葉に頭を縦に振ったのだ。 ここまでどれだけの時間を費やしたことか。 唇をサンダークラッカーの唇に押し当てた。実はまだ舌を入れたこともない。 一度ぶつかった唇を少しだけ放し、サンダークラッカーの反応を見ると 視線に気がついたのかアイセンサーを細めて視線をそらした。 「…サ、サウンドウェーブ」 「どうした」 「…もう一度、してぇ、かも…」 「…!」 サウンドウェーブは表情に出ない性質だ、しかし心が跳ねた。 珍しく自分のスパークがばくばく音を立てる、心地よかった。 もう一度唇を塞ごうと身体を沈める。 「エロサウンド!」 「ばか!」 鋭い蹴りが頭に飛んで来るとスタースクリームもろとも壁際まで吹っ飛んだ。 スカイワープがその間にサンダークラッカーを抱き起こすとサンダークラッカーは 同機2体の名を呼んだ。 「サンダークラッカー!嫌な時は嫌って言え!」 「廊下で交歓行為たぁてめぇもやってくれるじゃねぇか、あぁ!?」 「…」 鬱陶しい鳥どもが。 「…サンダークラッカーとは同意の下に」 「なわけねぇだろ!」 「無理強い反対!」 サンダークラッカーは「やめろよ!」と2体を止めようとするがほぼ意味はない。 折角のサンダークラッカーからの催促、キスがしたいと言わせた。 やはり、キスよりも接続よりも自分と同じ部屋に長時間いられるように。 これが最優先事項だ、とサウンドウェーブは考え直した。 --------------------------------------------- ラブラブな音波サンクラが書きたかったのだ!