ごみ箱










俺の予想だとさ
顔…とかスタイル?ジェットロンだから。色が寒色で似てるから。
何も言い返せないから。弱いから。駄目だな、悪いところばっかりだ。いいとこあがんねぇよ。

ある日急に握られたその手の意味を図りかねてる。







サンダークラッカーとサウンドウェーブは仕事をしていた。
特に何も話さず、自分だってそんな話したいことなんてないし、無言でモニターを見ていた。
時々モニターにでるデストロン反応に検索をかけたりしながらスタースクリームに同時進行で
頼まれていた武器エネルギーをセイバートロン星に受注するための伝票を書く。

サウンドウェーブはすぐ隣に居た。カタカタとメインモニターともう一台小脇にある小型のコンピューターの
画面を見比べながらその差異の調整に勤しんでいるようだった。


面倒くせぇなぁ。
伝票は紙製で、データじゃない。データだと消えることがあるから形に残しておくらしい。
紙にセイバートロン星の文字をすらすら書いていって最初にレーザーウェーブ宛。
最後にサンダークラッカーと自分の名前も添えておく。こんなもんかなと思い始めたところで
ふと感触を感じた。それは堅い鉄の感触だったが動いていた。

「え?」

右手にはペンを持ったまま。左手は何もせずに遊ばせていた。
その左手をぎゅっと握られたのを感じて目で追った。

「…サ、サウンドウェーブ?どうしたんだ?」

その手は無口なサウンドウェーブのものだった。
更に強く握りこまれて自分の頭の中は「?」でいっぱいになった。

「どうしたんだ?何かあった?」

手を握られたままサウンドウェーブのモニターを見ても何も変化はない。
もしかしておっかな吃驚するような情報でも見ちまったのかと思ったけどそれもない。
と、言うかこの男が驚くとか怯えるとかないよなぁ。じゃあこの手はなんだ?

「なんだよ?」
「…」

無口な男はこんなときでも静寂を好むのか黙ったままだ。
具合でも悪いのか?と顔を覗き込むとサウンドウェーブはマスクをスライドさせた。
え?吐くの!?と思ってしまった。だって口を露出させる意味がわからなかったから。

「あの、サウ」
「黙れ」

痛いっと思った。手を強く握られすぎて痛みが発生した。
その痛みは純粋に痛みではなく熱さをも感じて視線を少しサウンドウェーブからそらしたのが駄目だったんだと、思う。
視線をそらした理由は手が痛く、壊れたのではと思ったからだった。

「んっ?」
「…」

ほんの15秒。されど15秒。しっかりと自分達のそれは重なっていた。
口同士が重なり合ってそれ以上動かなかった。サウンドウェーブの表情に変化はなかったはず。
自分が逃げなかったのは硬直してたから。その長いようで短い15秒の間にブレインサーキットは復旧した。

「う、うわぁ!」

はじかれるように飛び退くと足がもつれて床に尻を強打した。
サウンドウェーブはまた無言で椅子の上から自分を見下ろすとモニターに向き直って
また仕事を開始した。自分は床に転んだままサウンドウェーブを見つめ返していた。

なんだったんだ?今の。
自分と、軍の情報参謀との距離がゼロ距離になった気がしたけど。
って言うか、ふ、触れられた?何でこいつ何もなかったように仕事してるんだ?あ、俺の妄想だった?夢?

「サンダークラッカー」
「は、はい!」

見上げると見えるサウンドウェーブの横顔はマスクをつけておらず、あぁ、やっぱ夢じゃねぇじゃねぇかと
認識させられる。そのまま動く唇を自分は直視していた。

「好きだ」

自分は返事を返すこともせず、動く唇を見つめていただけだった。





*




それが3日前。握られた手の意味と、最後に言い捨てたサウンドウェーブの言葉を直結できずに
自分は一人になるとぼんやりそれを考えていた。
「好きだ」の意味がわからない。手を握られた意味もわかんねぇし。何よりあのゼロ距離はもっとわからねぇ。


「本当にいいのかー?」
「あぁ、伝票。作るし」
「はいよ。終わったら来いよー」
「気が向いたらな」


同室のスカイワープが手にエネルゴンをいくつか持って部屋の扉から自分に声をかけてきた。
今日はスタースクリームの部屋で飲み会。新、旧ジェットロンと、一応トリプルチェンジャーにも声かけた。
カセットロンは呼んでないらしい。どうせ酔いが回ってきたらメガトロン様とカセットロン部隊の贔屓について
悪口大会が始まるんだ。そうなると面倒臭くてしかたねぇし。
どっちかって言うと俺はスタースクリームとスカイワープだけで飲みたい。
もちろん悪口は言い始めるんだけど、あいつら酔い始めると
ふにゃふにゃになって話す所じゃなくなるから解散しやすいんだよな。
トリプルチェンジャーは本当酒に強くて酔ってるはずなのに喋るし動くしまだ飲むし。

自分は一人で伝票書いてるのが似合ってる。

また先日みたいにもそもそと紙に字を書いていく。3枚で重なっている一番上をはがして
自分の机の上にそれを保存しておく。量が増えて保存できなくなったら一束にして倉庫に移動させる。
残りの2枚はセイバートロン星で保管するみたいだ。スタースクリームや他の連中が
メガトロン様に内緒で武器やエネルギーをセイバートロン星に取りに行かないようにの工夫。
内心「工夫になってんのかなぁ。これ」と紙をぺらぺら手で遊ばせてもう一枚伝票を書き始めた。

シュっと扉のスライドする音がした。
スカイワープか?もしかしてここを飲み会会場にするんじゃねぇだろうな…と振り返るとそこには青い機体がたっていた。

「あっ、…サウンドウェーブ…どした?」

無口な男が寄って来てペンを自分の手から取り上げる。
あっと声を漏らしてサウンドウェーブを見つめ返すと今までペンを持っていた手を握られた。
その感触は先日のあれを思い出させて自分の頬を勝手に紅潮させた。

「な、なに?なに?」
「…」
「サ、サウンド」
「黙れ」

マスクがスライドしてそこから現れた唇を見つめた。まただ。また触れる。触れられる。
衝撃に耐えるように身体を硬直させるとサウンドウェーブは黙って唇を重ねてきた。
自分は黙ってそれに耐える。30秒経過してあぁ、この間の倍の時間、自分らの距離は近いままだと
思うとますます頬は紅潮した。

サウンドウェーブがゆっくり離れて、視界にはまだサウンドウェーブしか映らないほどの
鼻先と鼻先がまだ触れ合うほどの微かな距離を保ったまま自分達は暫く見つめあった。

「…ど、どうして?」
「…」
「一人でいたからか?」
「…」
「…俺が他のジェットロンみたいに抵抗しないから?」

どうして触れてくるんだ?
ジェットロンが好きなのか?スタースクリームやスカイワープだと抵抗するから消去法で俺?

「サンダークラッカー。好きだ」
「…」
「サンダークラッカー」

もう一度名前を呼ばれる。お前だと、他の奴じゃないと強調するような口調だった。

「嫌なら、抵抗しろ」
「…」

その僅かな距離がまた近づいていく。
抵抗せずそれを受け入れると今度は1分触れ合っていた。


抵抗しろと言われても出来るはずもない。
握られた手が握り締めあうように絡んでも自分はサウンドウェーブが信じられなかった。

俺なんか、好きになるはずもない。

それでも求められるのがどこかで少しだけ嬉しくて、絡み合い握られ続ける手に力を込めて握り返した。





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サンダークラッカー「よくわかんない」→のでとりあえず握り返す→音波さん思考「告白の返事だなjk」
この2人は噛み合ってないようで噛み合ってるから大丈夫。