ごみ箱





自分は今どこだ?
痛い。背中?羽か?
腕も痛い気がする。
痛い。
リペアしよう…
でも腕があがらない。
まさか取れてたりしねぇよな…

スカイワープ。サンダークラッカー。サウンドウェーブ。
アストロトレイン。スラスト。ダージ。ラムジェット。
メガトロン。

誰でもいい。


「大丈夫かい?」


助けて。




リペア



「…気を失ってるな」
「エネルギー切れか?」
「それもありそうだけど、オイル漏れが酷いのと怪我が原因だな」
「怪我の原因は私だけどね。だがあのままだと民間人を巻き込むところだった…」
「マイスターの射撃はなかなかのものだよ」
「ありがとうラチェット」


ラチェットは射撃で墜落し崖にぶつかって大破してるスタースクリームの脇に
座り込み、伏せた目を指先で撫でる。
スタースクリームを診断する限り、このままじゃまず起き上がることは無理だろう。
ラチェットでなくとも簡単なスキャンが出来る者ならわかる。

両腕の神経回路の破損。後頭部強打によるブレインサーキットの安定率が
著しく低下。
更に頭部と右肩を大破したためにオイル管が破裂して大量にオイルがもれている。
無理やり目を開けて、光を差し込んだり指を振ってみても反応はゼロ。
意識レベルがかなり低い。

「それで、どうしてくれようかね?」
「副官の指示に従おうかな。出来ることなら最低限の治療はしてあげたいが」

アイアンハイドやクリフがいたらなんていうか…
少し微笑みながら口にするとマイスターもそれに賛同した。

「それじゃあここは最近入った新メンバーの意見も取り入れようか?」
「どうかな?スカイファイアー」
「…私に意見を聞くのかい?」
「そうさ。君もサイバトロンだからね」

今まで一言も喋らなかったスカイファイアーはラチェットとは
スタースクリームを挟んで反対側に座っていた。
急に声をかけられてゆっくりと顔を上げたがラチェットには顔を上げる前の
スカイファイヤーの表情が見えていた。
随分と不安そうに、心配そうにスタースクリームの顔を覗き込んでいたから
嫌でも目に付いてしまう。

「君が、スタースクリームを助けたいと思うのなら。私は直すさ」
「私はサイバトロンの副官だからね。みんなの意見を聞きたいと思ってる」
「…………」

スカイファイアーはまたスタースクリームの顔を覗く。
仰向けに倒れ、顔はラチェットの方に向けるように力なくしな垂れる。
その頬をスカイファイアーが撫ぜるとスカイファイアーの手が
スタースクリームのオイルで染まった。

「…頼んでもいいかい?ラチェット」
「もちろんだよ。早く済ましてしまおう。皆が来ると大騒ぎになる」
「コンボイ司令官がなんて言うかな」

にっこりと笑うラチェットとマイスターに好感が持てる。
申し訳ない、私の勝手で気を使わせてしまっている。
スタースクリームの治療を眺めながら自分は本当にサイバトロンに
入ってよかったと思った。


「ところで」
「え?」
「スカイファイヤーとスタースクリームってどんな関係なんだい?」
「え」

ラチェットが意地悪く笑うとスカイファイヤーは言葉を失った。
マイスターは少しだけきょとんとすると似たように意地悪い笑みを浮かべた。

「それは私も気になるね!」
「そうだろう?副官」
「別に…同じ研究所だっただけで…」
「目が泳いでいるよ。スカイファイヤー」
「え…そ、そんな」
「私達の前で嘘をつけると思っているのかい?」
「う、嘘ではない」

嘘ではないのだ。
スタースクリームは同じ研究所の研究員同士で、チームが同じのことが多く
なかなか優秀で、話も合い、彼がどう思っていたかはともかく、私は彼の
友人以上であったつもりだ。
今でも敵対しているとはいえ、出来ることなら傷つけたくない。
出来ることなら、また彼と元のような関係になりたいとも思う。

ラチェットは治療を続けながら時々こちらをみる。
動揺がばれないように心を穏やかに保ってスタースクリームの顔を覗き込んだ。
スタースクリームは意識を戻さない。寝息も聞こえないくらい昏睡状態だ。
破壊箇所とオイルの汚れさえ取れればきっと昔と同じ寝顔だろう。

「私の友人だ」
「…友人ね」
「スタースクリームに友人がいるとは」
「…まぁ、わがままで自分勝手なところも多いが彼の性格はわかりやすいよ」
「それは興味深いね。治療の暇つぶしになるから詳しく教えてくれると助かる」

マイスターは少しだけ離れた岩場に腰を下ろして腕を組んだ。
バイザーで目元は隠れているが、穏やかな口元と、自然体な身体全てで
彼の感情を見て取れる。
ラチェットも微笑みながら実に興味深そうだ。
彼らはスタースクリームの事をどれくらい知っているのだろうか?
私と知ってるスタースクリームとそこまで違いはあるのだろうか?


「戦争が始まる前だったからね。研究所に火気装備をしてるトランスフォーマーは
 本当少なくて、飛行可能な研究員も少なかったけど飛行可能で
 火気の使えるのはスタースクリームくらいだったよ」
「昔から物騒だったわけだ」
「ははっ…彼は人に大事な仕事をやらせるなら自分でやる傾向が強かったから
 出来ないことはない様したかったのかもしれない。現に彼は大抵の事を一人で
 全部やっていたよ」


昔を思い出して思わず口元が緩む。
その顔を目前の2人が見ていることも気付かないくらいに思いを馳せていた。

「そんなスタースクリームの友人にはどうやって?」
「彼が私を友人と認めてくれていたかはともかく仕事を任せてくれるレベルに
 信用はされていたみたいだ。もしかしたら良い様に使われていただけなのかも
 しれないがね」

気まずそうに笑い、スタースクリームの顔につくオイルを拭う。
目を伏せて気を失ったままのその顔は昔と変わらず幼くみえる、整った顔だ。
これで瞳にあの眼光が戻るとそんなもの目に付かない位恐ろしい顔をするのだが。

あまりにも皮肉めいたことをいうスカイファイアーに言葉を返せないまま
ラチェットは治療を続けた。
ある回路の治療に入った途端、スタースクリームの瞳が少しだけ明滅した。

「ぐ」
「…スタースクリーム?」
「……い…た」
「大丈夫かい?」
「……たす…け」

その顔をオイルを拭いながらあやすように撫でると瞳と明滅が安定してきた。

「視覚機能は使えるかい?」
「………スカ…ファイア…?」
「そうだよ。スタースクリーム?」

視覚機能が著しく低下しているらしく、顔を近づけると私と認識してくれたようだ。
消えろと言われるかと思った。顔も見たくない裏切り者めと。
この様子だとブレインサーキットにも支障が出ているのかも。
判断力の低下もあるのか。

「…手…腕は?」
「ん?」
「俺の腕…つなが…?」
「あるよ。痛覚はあるかい?」

ラチェットがこっそりと、スタースクリームの視覚に入らないように
スカイファイアーに近寄った。
スタースクリームはかなり損傷が酷い為、また意識が落ちそうになっているが
流石に近くにマイスター副官。そして看護兵ラチェットがいれば騒ぎ始めるかも
しれない。

「両腕の神経系がやられているよ。何も感じないはずだ」
「…スタースクリーム。私が手を握っていよう」
「…?」
「今リペア中だ。もう一度目を覚ます頃には私の手の感覚がわかるようになるさ」
「……」
「スタースクリーム?」

また起動落ちしたらしく反応はなかった。
今の言葉は聞いていてくれただろうか?

「腕をこちらに向けることは可能かい?」
「まぁ、多少動くだろう。引っ張ったり、乱暴にはしないでくれ」

君ならしないと思うけどと笑い、腕をゆっくりと曲げて、スカイファイヤーの
手元に近づける。
スカイファイヤーも繊細なものを扱うようにその指先を少しだけ触った。
青い指先。塗装がところどころ剥げて、泥がつき、油まみれな汚い指。
指の腹で撫でるように汚れを落としながら、指先を労わった。
君の目が覚めている時にもう一度、こうやって触れることが出来るだろうか?



「……つぅっ…」


どこだ?ここ。
頭を強打したせいで、記憶が疎かだ。
何をしていた?どこで何があった?
自分の身体は薄汚れて油まみれだった。
だが汚れているわりには随分損傷はすくない。リペアが楽にすむ。
ぎしぎし言う身体を起こし、立ち上がるとあることに気付く。

「…指先だけ無駄に綺麗だな」

塗装は剥げてるけど。と少し内心毒づく。
指先だけ、オイルも泥も何もつかない状態で異様だ。
しかも少し温かい。握りこんでいたようだ。
微かに記憶回路が起動音をあげる。

「…たしか…俺は」
『バカ参謀へ。こちらサンダークラッカー。応答せよ』
「……」
『阿呆参謀へ。こちらスカイワープ。応答せよ』
「………」
『スタースクリームへ。こちらサウンドウェーブ。応答しなくても良い』
「…………」
『バカモンが!いったいいつまで外をふら付いておる!!』
「…こっの…鉄クズどもがぁ!」
『『あ。応答あり。』』
『聞こえなかった』
『まったく。やっと応答あったか』
「どいつもこいつもバカにしやがって!特にサウンドウェーブはゆるさねぇ!!」

スタースクリームは急な強制通信に他の事はそっちのけでトランスフォームした。


「いやぁ…にぎやかだねぇ」
「応急リペアだがら…あまり長時間トランスフォームは難しいと思うんだが…」
「落下しないことを祈ろうか?スカイファイヤー」
「…あぁ。そうだね…」

近くの岩場にいた3体のトランスフォーマーは一度ため息を吐くと
気付かれないようにふらふらと飛行するデストロンのNo.2を見送った。



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サイバトロンの良心ども。
口は悪いけどラチェット格好いいよ!やさしいし!
マイスターは結婚して…!!ほれる…!