宙に浮いた軍隊が戦闘より帰還する。 各自傷ついているが敗退ではない。 完全な勝利ではなかったが今回は概ね良好である。 「あっ」 「え?」 「ん?」 スタースクリームは声をあげた。 スカイワープがそれに気付いて振り向く。 サンダークラッカーがスカイワープの声に気付く。 サンダークラッカーの声に先頭を行くメガトロンとサウンドウェーブが振り返り 前を行くデストロンが振り返れば後続を行くアストロトレインとカセットロンが首を傾げる。 「なんだ?」 「どうしたー」 「なんだうるさいぞ」 「や、別に大したことじゃないですから皆してこっち見なくても良いですぜ…」 スタースクリームは自分の一声で全員の視線が自分へ向くとは思っていなかった。 確かに自分に視線が集まるというのは気分のいいものである。時にはわざと大声で視線を集めることもある。 しかし今は別に視線を集めたくて声を出したわけでもなく、その声はむしろ 小さく、「あっ」と呟く程度のものだったのだが何分スカイワープとサンダークラッカーが反応してしまった。 しかもこの2体の声は大きかった。それに他が反応し始めて連鎖のように広まってしまったのだ。 「で、どうしたんでい」 「…オイル残量見てなかったぜ…」 先の戦闘で破損し、そこよりオイルが漏れ出ていた。 サンダークラッカーが背後から腰を掴むともれ出るオイルを撫でた。 「あぁ、ここだな…」 「後どれくらい残ってんだ?」 「…もうもたねー」 メガトロンが先頭で振り返り顔をしかめた。 腰に手を当ててスタースクリームを睨みつけると悪い事をした子供をしかるように怒鳴りつける。 「この愚か者!まだ基地まで数十キロは残っておるのだぞ!」 「わかってます!お、オイル補給…」 周囲を見回したがオイルやエネルギーがありそうな場所はなく 自分たちの下に広がるのは木々と海の境で人工物はひとつもなかった。 「俺、結構残ってるぜ?」 「本当かスカイワープ。でかしたぜ。分けてくれ」 「てかメガトロン様ぁ、空中給油参謀とかいないんですかい?」 「おらんわ。そんな奴…」 メガトロン自身、言っているがデストロンの主戦力は航空隊、つまりはジェットロンだ。 地を這い回るサイバトロンを空より一掃するあの感覚は空を飛ぶものにしかわからない。 メガトロンは実験と研究によって翼のない者でも飛べるようにしたが やはり身体に基礎能力として飛行がある者にはスピード、機動性、何をとっても劣るのだ。 「俺ら常に空にいるんですよ」 「確かに給油機は欲しいよなぁ」 ジェットロンがぶつくさ言うのを見てメガトロンは目を細めた。 気持ちはわからないでもない。現にブリッツウィングやアストロトレインからもその案は出ている。 「スタースクリーム。給油口あけな」 「んー」 給油リセプタクルはエアインテークと羽の隙間にある。 普段は丸く穴の開いたそこはシャッターのように閉じられているのだが スタースクリームの意思でそこが開きリセプタクルをあらわにすると スカイワープは自分のキャノピーを開いてブームを取り出した。 「はぁ!?お前、それでかよ!」 「同機サイズならブームよりもドローグが良いだろうけど、ドローグ格好悪いからよ」 あははと笑ったスカイワープをスタースクリームはみて顔をしかめた。 メガトロンたちは黙って見ているがそれは速くしろと言う視線ではなく 「どうやってやるんだ」といった好奇の視線だった。 アストロトレインは仮にもシャトルだ、ある程度は知っているが ジェットロンとはまた異なる。メガトロン達に至ってはまったく関連性がなくてわからなかった。 それは純粋な興味に近い。 現れた穴にキャノピーから出したブームを取り付けるため スカイワープは穴のある背中側に回って両肩を掴んだ。 「動くなよ〜」 「早くしろ」 「いれるぜ…」 サンダークラッカーがスタースクリームの前に回って両手を掴み更に支える。 前後から支えられて安定したスタースクリームは力を抜いて目を細めた。 「…いっそビーグルモードのほうがよかねぇか?」 「余計バランス取りにくいんじゃねぇか?」 「このままで良いから速くしろよ」 スカイワープがスタースクリームのリセプタクルに自分のブームをゆるゆると挿し込んでいく。 スタースクリームの両手をサンダークラッカーがぎゅっと掴んで支えると スタースクリームは微かに空を仰ぎ、口から息を吐いた。 背後からスカイワープが「オイルいれるぞ」と囁いてくるのを一度の頷きで返すとそのまま静止した。 こぽっと音がしてオイルの給油が始まる。 スカイワープがキャノピーを押し付けるように背中から支えているが スタースクリームが微かに動くたびにブームが抜けかけてオイルが零れそうになる。 「あっもう!動くなよ!零れる…!」 「スタースクリーム。しっかり静止してろよ」 「ん、重量バランス変わるから動いちまうんだよ…だからブームよりドローグの方が良いってんだ…」 スカイワープが背後よりスタースクリームの腹部に手をやって擦る。 何度か往復するように撫でるとスタースクリームの顔に自分の顔を寄せて目を細めた。 「…もう良いんじゃねぇか?」 「まだ、もう少し…」 「俺が空っぽになっちまうよ」 腹部を撫でると水音がしてオイルが入り込んでいるのがわかる。 「もっと…足らない…もっと欲しい」 「サンダークラッカー…変わってくれ。これ以上は俺が帰れなくなる」 「仕方ねぇな…」 スカイワープがスタースクリームの背中より微かに離れると リセプタクルより棒状のブームがぬるりと出てきた。 「んっ、あ」 スタースクリームが少し艶を帯びた声をもらす。 「このっ、馬鹿が!」 「えっ」 「うわぁっ!」 「あ、スタースクリーム!」 メガトロンがスタースクリームの頭部を強く殴ると スタースクリームは海へと落下した。ある意味森に落ちるよりかは良いかも知れないが 強く水しぶきを立てて落ちたスタースクリームはなかなか上がってこない。 「め、メガトロン様ぁ?」 「な、なんで怒ってるんです?」 「この馬鹿どもが!何をしてるか!」 「…?」 「??」 スカイワープが怒られたことを悲しそうに目を細めて見つめ返す。 謝りたくても理由もわからず、謝ることもできない破壊大帝を崇める男は悲しげにするだけだった。 サンダークラッカーはきょとんと首を傾げてそれをみる。こちらも同様怒られた理由が見つからない。 「スタースクリームを拾って来い」 「えっあ、はい」 「…」 サンダークラッカーとしょんぼりしたスカイワープが海へ向かうのをデストロン一同は見下ろすと 小さくなる2体から目をそらして見合わせた。 「……アストロトレイン」 「へい」 「空中給油はあんななのか」 「…方法は間違ってませんぜ。ビーグルモードの方が目に優しいだけで」 メガトロンはサウンドウェーブのほうを見ると黙って言葉を促した。 「…空中給油参謀でも雇うか」 「…もっとましなことは言えんのか」 「同機サイズじゃなくて空中給油機でも方法は同じですぜ」 「…」 メガトロンは頭を押さえた。 この間までは空中給油機を取り入れる考えを持っていた。 確かに戦闘では便利だろう。しかし考えが変わった。 「あんな光景毎回やられたらデストロンの恥さらしだわい」 海面で騒ぐスタースクリームをもう一度見下ろしてメガトロンは基地の方へと向き直った。 フレンジーとアストロトレインが後続で目を見合わせるとフレンジーはにへっと笑った。 「うっへ〜!空中給油機になってみたいもんだねぇ?アストロトレイン!」 「…なんでか理由を聞いても良いですかねぇ?フレンジーさんよ」 「あいつら3羽にいつでもどこでもぶち込めるんだろ?役得じゃねぇか!」 「新ジェットロンと、俺とブリッツの野郎にもぶち込むことになるけどな」 「………」 フレンジーは顔をそらすと黙った。 「出発だ。スタースクリームがまた燃料切れだと騒いだら…アストロトレイン、乗せてやれ」 「…了解」 アストロトレインは飛んでくる3体を見て「まぁ、これも役得か」と自分の立ち位置に満足した。 ------------------------------------------------------------------------------------- ただ単に空中給油のえろさを語りたかった。 F22は背中ど真ん中なんだけどF15ってへんなとこにあるよね…