1000万年あれば聖人でも破壊大帝になれる。 1000万年あれば悪人でも天国へいける。 空下 「…スタースクリーム?」 「っ…!スカ…イファイヤー…!!」 「君、まだこんなところに居たのか」 ほんの数分前にデストロン軍のリーダーが全軍撤退の命令をだした。 その時はスタースクリームはメガトロンの隣に居たと思ったが。 デストロン軍の撤退を確認して、戦闘で破壊された物、負傷者の修理が始まり ラチェットやホイルジャックの手伝いをしようとしたが 皆の運搬に疲れているだろうし、少ししたらまた皆を乗せて基地に戻るからそれまで ゆっくりしていてほしいと言われ、手持ち無沙汰になってしまった。 近くの木々にはいって地球の生物の観賞を始めてすぐにスタースクリームに気づいた。 今、現在、私の目の前で木にもたれ掛かるように座り込んでいる。 スタースクリームも私の声に気づき、饒舌とは言えない喋りで名前を呼んできた。 よくよく表情を見ると少しゆがんでいる。撤退時に怪我をしていたかを メモリを再生することによって思い出す。あぁ、確かに頭を抱えていたような気がする。 それか、この顔のゆがみは私に逢いたくなかったという、感情なのかもしれない。 「怪我かい?」 「黙れ…!」 「こんなところに居るってことはサイバトロンに捕まりたいって解釈でいいのかな?」 「………」 スタースクリームは恐ろしいほどに睨み付けて来た。 少し、時間に表記して30秒ほど睨まれた後、ゆっくりと立ち上がって背中を向けてきた。 背中を向けられたということは流石に戦闘の意思はないようだ。 はっきり言って私も戦いが好きなわけじゃない。 武器を向けられない限りは出来る限り自分の武器も向けたくない。 このまま去ってくれるのならと思う。 こんな考えはすぐに消え去ることになるのだが。 「……?」 「ぐっ…」 スタースクリームが数歩正面に進んだ後、急激に向きを変えて左に曲がったと思えば 方向を真逆に転換して、更に数歩進む。そのまま不思議に思いつつも眺めていると右へ左へ。 こちらを向いたと思ったら今度はこちらに進んできた。 「す、スタースクリーム?」 「…どきやがれ」 「こっちにはまだコンボイ司令官達が居るから、こっちはオススメできない」 「どけ」 「それはできない」 制止の声を聞かぬまま進んできたスタースクリームは私を避けないでぶつかってきた。 別に痛くも痒くもなかったが傷を負っているスタースクリームは別だったようで 小さく悲鳴を発した。 そのままの状態で移動しないスタースクリームを少し上の目線から見下ろす。 スタースクリームの顔は私の胸元に埋まっているという表現は適切ではないが彼の装甲を 感じる距離だ。少し懐かしいこの角度のスタースクリームをわざわざ引き離すこともせず そのまま見下ろす。最近では数十メートルは離れた距離でしか彼を見れなかったから。 「……君、どうしたんだ?」 「…………方向指示器がイカレたんだ。放っておきやがれ…!」 「……なるほど」 右に行きたいのに左に進む。 前に進みたいのに後ろに進む。 そんな状態に陥ってしまう。 スタースクリームの自然治癒力は低くなかったはずだから確かに放っておけば直るだろう。 だからこそ、スタースクリームはここに座っていたんだ。 「すまない。気づかなかった」 「あぁ?何が」 「私が君の治療の邪魔をしたね。座っていれば直っていた」 「…もう離せ。それともこのままサイバトロンの連中のところまで連れて行くか?」 「そんなことしないさ。だからと言ってこんな所においていては見つかるね」 「……何が言いてぇんだよ」 こんなときに自分の体格には感謝する。 スタースクリームに騒がないように一言注意するとその口からは疑問の声が上がったが 少し屈んでスタースクリームの両足、正確には膝裏に腕を回すと持ち上げた。 「いっ…!おまっ!何っ!?」 「静かに、移動するよ。大声をだせば流石に気づかれる」 「…っ」 戸惑いと、屈辱と、焦り。 そんな表情のスタースクリームに一度笑いかけると顔をひそめられた。 抱き上げた状態で歩き始める。かなりの距離を離れてから空へと飛んだ。 真っ直ぐ上へと飛ぶとスタースクリームはしがみつくように私の腕を掴む。 まぁ、方向指示器が駄目な状態で空を飛ぶのは確かに遠慮したいものだ。 「降ろせ!」 「地上より空のほうが見つからない」 「降ろせ!落とすつもりか!?それが狙いか!?」 「違うよ。君が直るまで抱きかかえてあげるさ」 「……なんだ?デストロンに戻りたいか?」 誤った理解に顔をにやけさせるスタースクリームに 「違うよ」ともう一度発言するとまた戸惑いを含む顔へと変わる。 先ほどよりも戸惑いが増えたようだ。更に言うなら怒りも。 「じゃあなんだ!!裏切り者!」 「待ってくれ、スタースクリーム。私は」 「方向指示器はだめでも火力に問題はないんだぜ?」 「この高さで私を撃てば君もただではすまないね」 「脅しかよ?1000万年会わない間にそんなことまで覚えたのか、あんなに人が良い事で有名 だったのになぁ?変わるもんだぜ」 「それは私の台詞でもあるようだ。私達は変わりすぎたね」 「…放しやがれ!」 表情から読み取れるのはもはや怒りだけだったが 彼の中ではきっとたくさんの感情が渦巻いているんだろうと思った。 少しだけ、悲しい顔をしたからだ。多分。気のせいではない。 1000万年は長すぎた。変わったのは私ではなく多分君だ。君だけだ。 私は機能を停止していたから、何かに影響を受けることもなかったし 性格、感情が変わることはなかった。これを言ったらどんな表情をしてくれるだろうか。 両腕で私を拒絶するスタースクリームを放さない様に努力する。 これで落ちて大破、もしくは起動不能状態になったら流石に夢見が悪い。 サイバトロンの皆はよくやったと褒めてくれるかもしれないがサイバトロンである前に私は。 「1000万年の年月で私と君との間には何もなくなってしまったかい?」 「あぁ!!そうだ!」 「それなら何故、私を助けてくれた?」 「氷の中からの話か?それなら命令だったからだよ!メガトロンのな!」 「フレンジーと言ったかな?あのカセットが言っていたが必死に助けてくれたんだろう?」 「必死?まさか!あいつは誇張する癖がある!」 「私は君のことをまだ忘れていない」 「っ……やめろ!なんだ!?」 右腕で落ちないように腕を回して左手で頬を撫でるとスタースクリームは私から目を 離さなくなった。酷く戸惑った目だ。真っ赤な目と感情を口に出来ないで僅かに開かれる口。 その右目を指の腹で撫でる。すこし驚いたように後ろへ退いたが落ちそうになって 両腕で肩を掴んできた。 右目を閉じさせて瞼を撫でると左目が僅かに揺らいだ。 薄く開いた唇から私の名前を小さく呼ばれた。 この表情は知っている。スタースクリーム。懐かしい。 「んむっ…んっ」 「………」 「………スカ…」 抵抗しなかった。それだけで満たされた。嬉しい。 スタースクリームの唇をふさいでやった。舌を押し込んでみた。 戸惑いながらも私の舌に絡めてくれた。久しぶりの感覚に腕が震えた。 スタースクリームの両手が私の両頬に触れて、更に私達の距離は縮んだ。 歯列をなぞって、スタースクリームの口内に含まれる潤滑油を自分の口内へ移した。 音を立てて口を離すとスタースクリームはうつむいてしまった。 「馬鹿野郎っ…」 「スタースクリーム?」 抵抗しなかった。 罵声をあびせられた。 どうしてだ? もう一度、君に触れたいが、それは駄目だろうか? 2度目には抵抗されるだろうか? 1度目は急すぎて抵抗できなかっただけだろうか? 「スタースクリ」 『スカイファイアー。応答してくれ』 スタースクリームが驚いて私の胸を思い切り押した。右腕から放れてしまった。 それに驚いて声がでなかった。後々それは自分にとって幸いなのだが、 自分がどこで誰と何をしていたかを皆に知られなくてすむ。 それよりもスタースクリームの名前を呼ぶことができなかった。少しだけ、悔やんだ。 落下したスタースクリームは私からかなり離れた地点でトランスフォームしてそのままの スピードでメガトロンたちが去っていった方向へ飛んでいった。 方向指示器は直ったのか。よかった。 一度もコチラを見なかった。名前を呼べば振り返っただろうか。 『スカイファイアー?どこにいる、応答してくれ』 「…はい。コンボイ司令官。少し空を飛んでいました。今からそちらへ降下します」 『あぁ、わかった。修理と地域内の修繕が終わった。皆を乗せてもらいたい』 「了解。5分もかかりません。搭乗の準備を進めていてください」 『ありがとう』 会話の最中、ずっとスタースクリームを見ていた。 全力だろうか?かなりのスピードで飛んでいってしまった。 すぐに見えなくなった姿に小さく呟いた。 「1000万年の年月も必要なかったみたいだ」 研究所にいたころの私は、否、数ヶ月前の君と敵対する前の私なら きっと君の名前を呼べただろうに。 ------------------------------------------------------------------------------------ 元ネタはすっ転んで方向指示器がイカれて木にぶつかるスタスクの回から スカファいい人だと思うんだけど、ランブルのこと 「ブリキ頭のDOJI☆KUN」(日本未放送のコンピューターの反乱の回)って 呼んだ所を見ると案外スタスクと性格似てるのかもしれない。 更に言うなら「あの野郎〜!」ってスカファを追っかけて行くランブルに愛しか湧かない。