「何本見える?」 「…2本」 「3本だよばーか!!」 ギャハハと笑う声に向かって蹴りをくりだしたが、そこには壁しかなく 脚の装甲が少し削れて終わった。未だに笑い声は続き、逆に自分のむなしい壁への 蹴りを見てその声はより一層不愉快きわまる音へと変わった。 「普段視覚センサーに頼りすぎなのだ。愚か者め」 「その声はメガトロン!」 「わしを裏切るからこうなるのだ。お前が邪魔しなければエネルゴンは大量に得られたし あの憎きサイバトロンも破壊できた…」 自分よりも大きい質量が近くに居るのはわかるがメガトロンだと確証は得られなかった。 しかし、正常な聴覚センサーがメガトロンだと告げる。小言に対して言い返したい。 「しかしながら、メガトロンさま。この作戦を考えたのは私です。古い考えしか 浮かばない老いぼれリーダーよりも時代はこのニューリーダーに!」 「どっちを向いておる」 「スタースクリーム…お前壁に向かって語るなよ…」 喋りたくなくなった。 * 「さ、サンダークラッカー。」 「なんだよ」 「速い。歩くのはやいぞ!もっとゆっくり…!」 「手を引いてやってるだけ喜べよ!ここで放り出してもいいんだぜ」 メガトロンからリペア室に向かえと指示が出た。 リペアが終わったら戻って来い。再度出撃する。 愚か者。そっちはリペア室ではない。…あぁ…もういい。 サンダークラッカー。連れて行ってやれ。 サンダークラッカーは頭の中で先ほどのメガトロンの命令を響かせる。 後ろのコイツを捨て置きたいのを我慢してその手を強く握ればスタースクリームは 痛いと文句をつけた。 「さっきの作戦も、お前とスカイワープが邪魔しなければメガトロンを始末できたのに…」 「お前いい加減にしろよ、メガトロン様に逆らうのは。」 「なんだと?お前あんな老いぼれについていくって言うのか」 「メガトロン様はデストロン軍団を率いるに相応しい方だろう」 「けっ、阿呆のサンダークラッカーに馬鹿のスカイワープ。くだらない部下を持ったよ」 それはメガトロン様の台詞だよ、反骨精神のスタースクリーム。 お前が副官らしい働きが出来ればデストロンは既にサイバトロンなんか撲滅して 宇宙の覇者になりえているはずなんだ。 まぁ、それだけスタースクリームは影響力があるって訳だが。 なんだか面倒くさくなって掴んでいた手を放してみた。 後ろから小さく「え?」と囁くように聞こえると振り返らずに数歩、大股で進み 距離をとった後にゆっくりと音も立てず振り返る。 放された手を下ろす動作もなくスタースクリームは固まっていた。 センサー使ってついてこいよ。面倒くさいヤツだな。でも声はかけない。 冷ややかな目でスタースクリームを見つめ続けると赤い目は役に立たないものの スタースクリームらしく赤々に輝いていた。 目はあっている。見つめ合っているはずなのに、スタースクリームはその目を 左右に振った。 「サン…ダークラッカー?」 放された手を下ろさず、コチラに伸ばしてくる。 伸ばしきっても何にも触れないことに恐れを感じたのか伸ばした右手を左に伸ばすと そこでやっと壁に触る。 指先と鉄の壁でカツンと音を立てるとスタースクリームは驚いたようだった。 あー、パニックおこしてセンサー使い物にならねぇなこりゃ。 触れた壁を撫でるとそれがロボットでなく、ただの壁だと気づいたようで 壁沿いに歩き始めた。俺までまだ距離がある。 「い、いるんだろ?」 声が少し震えている。 おいおい。まるで迷子だな。スタースクリーム? 何をそんなに怖がることがある。 「あんまりふざけると、容赦しないぞ…」 数歩進んでとまる。数歩進んでとまる。 その繰り返しで俺の目の前まで歩いてきた。 そろそろセンサー認知できるんじゃねぇか? それともまだパニック状態なのか 「…どこいったんだよ。サンダークラッカー…」 先ほどよりも弱弱しい声。 うつむいて、そこで歩みを止めてしまった。 何がニューリーダーだって?こんな弱い上官は要らねぇよ。 特に、このデストロンならな。 「…だからお前にはリーダーは無理だって」 「っ!」 両肘を掴んで引き寄せてやる。 装甲同士がガツンと音を立てて痛みが走った。 驚いているスタースクリームの阿呆みたいな半開きの口に舌を押し込んで歯を奥から 順になぞってやると、口から漏れる喘ぎと息がスタースクリームの排熱を教えてくれた。 舌を絡めて、互いを傷つけない為に溢れて来た潤滑油が音を立てる。 抵抗がなかったスタースクリームの腕が背中に回り、強く抱きしめ返された。 まったく、気まぐれな上官だ。 「なんてことしやがる」 「なんだよ?お前だってノリノリだったじゃねぇか」 「ちげぇよ」 「は?」 「急に一人にすんな」 どうやらニューリーダー様はお一人が嫌いのようだ。 だから目立つ行動をとったり、人の上に立ちたがってるのもわかっている 「もしも転んで俺様の美しい顔に傷でも入ったらどうすんだ!」 「へいへい」 「お前と違って俺様は繊細で」 「わかったって。早く行ってリペアしようぜー」 そのお美しい顔が見れないままでいいのかよ?と続けるとやっと黙り込んだ。 背中の腕を払いのけると、また一人にされるのではと怯えた顔をする。 払われた右手をしっかりと掴みなおして再度歩き始めると スタースクリームは見えないはずの俺の顔をじろじろとみた。 「なんだよ?何かついてるか?」 「みえねぇけど、今どんな顔してるんだろうなぁと思ってよ」 「残念だけど、俺から見えるのはお前の情けない顔だけだよ」 それに反論はなく。握った手が握り返されただけだった。