俺様の名前はスタースクリーム。
元研究員で、現在は悪名名高きデストロン軍団の副官であり、軍団の主戦力の航空兵の長。航空参謀だ。
現在位置は、セイバートロン星より約1800万アストロ東へ。銀河系の地球に基地を構えて
セイバートロン星のためにエネルギーを奪取。そしてサイバトロンの殲滅が目的。

デストロンの破壊大帝メガトロンの慰み者。愛人もしている。
嫌ではない。メガトロンは案外行為の最中優しいからだ。だから俺は喜んで相手になってる。
この感情に名前をつけるなら愛にも近いだろう。メガトロンも「好きだと言ってみろ」と頭を撫でてくるし。

メガトロン。好きだぜ。愛してるって言ってやるよ。むかつくけど嘘じゃねぇさ。
だからこの星が嫌いだ。この感情を奪っていくこの星を地球とは呼ばない。


死の星で十分だろう?
だってエネルギー奪取が終わればこんな星、すぐに消え行く運命さ。






アオグ星。





スタースクリームは起動を開始した。
明るくなる視界にゆっくり身体を起こすとそこには破壊大帝がいた。
驚きなんてしない。だってここはメガトロンの部屋だからだ。後姿を眺めながら今まで寝ていた寝台に伏せた。
メガトロンは振り向かなかったがモニターに映るサウンドウェーブと話している。

スタースクリームは下半身の疲れを感じつつ寝台にうつ伏せになると床にだらりと腕を下ろして指先で床を引っ掻いた。
わざと金属の指と金属の床をぶつけるとカツカツと音が鳴る。一秒に一回のペースで鳴らすとそれは音楽のようだった。
メガトロンは少し笑いながら振り向いた。モニターにはサウンドウェーブがつきっぱなしだが
サウンドウェーブもこちらをみた。サウンドウェーブにはメガトロンの室内全景が映っているだろう。
当然自分がメガトロンの寝台にごろごろとしているのもあいつには見えているのだ。

「起きたか。スタースクリーム」
「とっくの昔に」
「喜べ。今回の作戦、成功するぞ」

とても楽しそうに作戦を話す。コンボイの倒し方。地球のエネルギーの集め方。
なんでい。5回に3回は失敗するくせに。完璧に作戦が成功するなんてあったためしがない。
スタースクリームは時折、相槌を打ってメガトロンの話を聞いた。
内心思ってることを伏せて「へぇ、そりゃぁ完璧ですな」なんて言ってみる。

サウンドウェーブがメガトロンの説明に解説を加えたりもする。ふーんと唸ったりして話を聞いてるのをアピール。
話を聞きつつも指を床に打ちつけたままだ。カツカツ。カツカツ。

「……メガトロン様。こちらで機材はそろえて置く」
「うむ。頼んだぞ」
「少しスタースクリームに構ってやれ」
「む?何故だ」
「カツカツうるさい」

サウンドウェーブが普段よりも少し低音を聞かせて言うとスタースクリームは
指をカツカツならしながらもう片方の手を上げた。

「お。悪いね。ラジカセ野郎」

サウンドウェーブは黙ったままだったがメガトロンは「スタースクリーム!」ととがめるように名を呼んだ。
うつ伏せの身体を起こして寝台に座る。メガトロンのほうをむいて肩をすくませる。

「そんな怒らんでもいいでしょう。破壊大帝の名が廃りますぜ?」
「愚か者。航空参謀の名を廃らせた者の言う台詞か」

大股で近づいてくるメガトロンをみてスタースクリームは笑った。普段なら謝り倒すところだが
今のこの状況をスタースクリームは好んでいた。メガトロンは自分を叱らない。そんな確信があったから。
目の前まで来た大帝の首に手を回して唇に噛み付いた。メガトロンは少しだけ驚いたといった表情で
スタースクリームの背中にある羽に手を回し、撫でた。

「……」

サウンドウェーブは黙ったままだったがスタースクリームがメガトロン越しにモニターをみて
目元だけで笑うとサウンドウェーブは不愉快だと言った表情をした。
マスクとバイザーで表情なんて読み取れないんだが不愉快だというオーラが発せられた。

首に回した手を片方あげて左右に振る。「さいなら。早くモニター切れよ覗き陰湿野郎」の意を込めて。
サウンドウェーブもそれを読み取ったのだろう。ブツっと音がしてモニターが消える。
大型のモニターが消灯すると寝室が少しだけ暗くなった。

「まったく…お前という奴は…」
「メガトロン様…」

メガトロンの頬に自分の頬を擦り付けるとメガトロンは仕方がなさそうに
ため息を吐いてスタースクリームを寝台に押し倒した。
そう。これを待ってたんだよ。破壊大帝。足りねぇよ。あんなもんじゃ満足できない。

寝台に上がってきた破壊大帝の足に自分の両足を擦り付けるとメガトロンは笑った。

「作戦ではお前におおいに働いてもらうぞ?」
「もちろんです。私がいなければ作戦成功はありえないでしょう?」
「また調子に乗りおって…」


最近では滅多にこんなふうに甘えられない。戦争が原因だとかそんな話じゃないけどよ。
前、地球に来る前はセイバートロン星で毎日、いや毎日は言いすぎだ。だけどそれくらい。
メガトロンに触れて、撫でてもらって、あぁ。この人の近くにいるのが好きだと思った。
それが地球にきてからは回数が減るし、やたら怒るし。まぁ、セイバートロン星のエネルギー確保の為の前線で
相当神経使ってぴりぴりしてんのも理解できるんだけどよ。

サイバトロンなんか殲滅してエネルギー確保してセイバートロン星に戻ったらまたあの頃に戻れるだろうよ。
だから今は笑いながら唇を重ねてくるメガトロンで満足しておく。





*






「まいったな…」
「まいりましたね」



コスミックルスト。宇宙錆だ。
メガトロンとアストロトレインが感染した。体を徐々に蝕んでいく宇宙錆。
金属生命体がかかったら助かる見込みはない不治の病みたいなものだ。
サイバトロンの学者の作った治療薬でメガトロンは無事だったわけだが、もう治療薬は残っていない。生成もできない。
サイバトロンに宇宙錆をうつす事にも成功したがあっちはあっちで上手くしのいだらしい。
とにもかくにも、もうこの宇宙どこ探してもコスミックルストの治療薬はないのだ。
気の早いやつらはアストロトレインに「ご愁傷様」と言っている。自分もそう思う。そんなものに感染した奴が悪い。
しかし我らが破壊大帝は違うようだ。自分が感染したというのもあってかアストロトレインの容態を心配している。
とは言ってもうちの情報参謀サウンドウェーブもお手上げのようだし、どうするんだか。

スタースクリームはどうでもよさそうに欠伸をしながらメガトロンが必死になって治療法を探しているのを見ていた。
構ってくれなさそうだし、部屋にでも戻ろうかと立ち上がった時にメガトロンも同時に立ち上がった。

「……スタースクリーム」
「はいぃ?なんでしょう…?」
「お前…儂に触れていたな」
「……あぁ、治療の時ですか?」


そういやそーだったな。と思い出す。
宇宙錆のウイルスが詰まった隕石の欠片を肩に受けたメガトロンの治療をするときに
手を治療用のアームに変えて、その欠片を取り出したのだ。

「それが?」
「何故感染していない?」
「…たまたまじゃないですか?運がいいんですよ俺は」
「そんなはずはない。触った者は感染する」
「……何がいいてぇんです?」

メガトロンが近づいてくる。威圧的な態度にたじろいだが自分は何も悪いことをしていない。
両肩を掴まれて真正面から見つめられる。これが寝台の上だったら少しは雰囲気も盛りあがるってぇのに。

「まさか抗体をもっているのではあるまいな」
「抗体?そんなまさか。私はコスミックルストなど、初めて見ましたが?」
「サウンドウェーブ。こい」

通信機に一言だけ呟くと一分もかからずその場に情報参謀はやってきた。
扉をくぐってきてスタースクリームの両肩を掴んでいるメガトロンをみて一度足を止めたがそのまま入ってくる。


「何だ」
「こいつを調べろ。抗体をもっているかもしれん」
「だから知りませんって」
「わかった。こい」
「だぁ!もうしつけぇなぁ!」


今度はサウンドウェーブに腕を掴まれて研究施設まで連れて行かれる。
抗体の発見だなんて無駄なことするくらいなら他の事やれってんだよ他の事をよ。
しかしそんな考えはすぐに打ち砕かれた。

研究室に入って5分で抗体が見つかったからだ。


「メガトロン様。抗体が見つかりました」
「本当か!」
「嘘だろ!?なんで…」

サウンドウェーブは俺から取ったオイルを検分してソレをデータ化にするとメガトロンに渡した。
メガトロンがそのデータに目を通している間にサウンドウェーブはこちら見て目が合うと喋り始めた。


「スタースクリーム。お前は研究員だった時に惑星調査員だった」
「あ、あぁ。それがなんだってんだ?」
「その時に何かしら『コスミックルスト』の抗体になりうるものを身体に取り込んでいる」
「……あ〜…確かに惑星調査員には毎回ウイルスの抗体が更新されるたびにスキャン義務があったけどよ」
「それだ。錆関係に対するウイルス駆除ソフトがお前の中にはいっている」

顎に手を当てて確かにそんなものあったかもなぁなんて考える。
まさかあの頃のそんなものが今の自分の為になるなんて。世の中わかんないもんだ。

「…と、いうことはだ」

データを見終えたメガトロンが顔を上げた。
それをサウンドウェーブが見る。つられて自分もみた。

「そのソフトを複製してデストロン軍団全員にスキャンさせればこういったウイルスに感染しないというわけか」
「そう簡単なものでもない」
「なに?まだ何か問題があるというのか」

メガトロンが少しイライラし始めているのには気付いていた。
アストロトレインはかなり重症だ。もう錆だらけで一体どこが体のつなぎ目かもわからない状態だ。
もちろんトランスフォームなんて出来ないし、本人もかなり衰弱してる。今はデストロン軍の一番最新の
リペア管につけられているので進行具合はかなり停滞させてはいるものの、時間の問題だろう。

「複製不能だ」
「……手はないのか。サウンドウェーブ」
「……」

メガトロンはため息を吐いた。
破壊大帝は思ったよりも部下思いだ。「破壊大帝」の名はメガトロンをよく思わない奴がつけた名前だ。
本来のメガトロン率いるデストロン軍団は「平和のために手段は選ばない」だけである。
メガトロンは自分を仲間に引き込む時に言った。平和の為なら戦争が必要だと。一度崩さなければ平和など
やってくるはずはないと。そのためなら破壊も攻撃も行うと。
だからメガトロンは部下を好き好んで破壊するようなトランスフォーマーではない。まぁ、勘違いしてる輩もいるけどな。

アストロトレインは諦めるしかないのかとメガトロンのため息は諦めを含んでいた。
スタースクリームは自分が関係ないからとそこまで思いいれはできないがメガトロンが困っているのを見て
おおはしゃぎできる場面でないことぐらいは気付いていた。


「…一つだけ可能性は」
「……なんだと?」


サウンドウェーブはゆっくりこっちを向いた。
スタースクリームは「?」と目を細めて文句つけるように睨んだ。

「なんだ?俺が関係してんのかよ」
「………」

何を思われたかわからないままサウンドウェーブはメガトロンのほうに向き直った。

「可能性は低い」
「構わん。話せ」
「スタースクリーム自体をウイルス駆除ソフトの代わりにする」
「はぁ?」

何言ってんだこいつ。
忙しすぎて頭でもイカれたかとスタースクリームは腰に手を当てて大げさなリアクションをした。

「何言ってんだ。可能性が低い?そんなもんじゃないだろうよ。不可能だぜ」
「スタースクリームの中の駆除ソフトを通信可能にすれば、抗体と駆除を他のトランスフォーマーに
スキャンさせることも不可能ではない。しかし成功する確立は低い」
「やってくれ」


メガトロンは不可能だとか確立が低いだなんて言葉は聞いていなかった。
一言で命令を下すとサウンドウェーブは少し間をおいて了解と言葉を落とした。


「待てよ」
「なんだ」
「まさか俺をアストロトレインと直接繋ぐわけじゃなぇだろうなぁ?」
「……」
「あんな錆だらけの野郎とソフトインストールのためだけに接続はごめんだぜ」
「……」
「大体本当に成功するかもわからねぇしよ。これで俺が感染したらどうすんだ」

「スタースクリーム」

メガトロンの声は低く、戦闘時のそれに近かった。
メガトロンのほうを見れば赤いギラギラとした目が睨みつけてくる。

「これは命令だ。デストロン軍団のために」
「……だ、だってよう!あいつと接続して本当に直るかなんて…!」
「俺が先に試そう」


意外なところから意外な提案。これにはメガトロンも驚きだ。
スタースクリームは自分の聴覚機能を疑いつつも声の主を見た。

「サ、サウンドウェーブ?」
「まず、スタースクリームと自分が接続する。それで自分がアストロトレインと接続する」
「……いいのか。サウンドウェーブ。きわめて危険だぞ…」
「構わない」
「な、お、まえ、何言ってんだよ…し、死ぬかもれないぜ?」
「メガトロン様の命令だ」

サウンドウェーブは首の辺りを弄るとそこからコネクタとレセプタが見えた。
レセプタを指で数度撫でた後、接続部位の安全確認をしている。
赤いバイザーがこっちを見てくる。スタースクリームははっとして自分の首のあたりを弄るとそこから
コネクタを取り出して最大までケーブルを引き出した。

基本的に情報交換、データの送受信。ソフトのコピーなんかはこの首の接続部位で何でも可能だ。
ブレインサーキットに最も近く、様々な情報を管理する頭に近い首からの接続は的確で速い。

スタースクリームはサウンドウェーブに自分のコネクタを渡すと
サウンドウェーブは無言で受け取って自分の首にあるレセプタに差し込んだ。

サウンドウェーブがバイザー越しに合図するので自分の体内を探って奥底にあるウイルス駆除ソフトのコピーを生成して
サウンドウェーブに送りつけるように指示を出す。メガトロンは黙ってその参謀2体を見つめていた。


「………送ったぜ…?受信できたかよ?」
「……コピーにロックがかかっていて開かない。接続部位を通過する時にロックがかかった」
「あぁ?なんでだよ…」
「これは研究施設員専用の駆除ソフトだ。レセプタをデータが通過する際に研究員かどうかの確認作業が追加されている」

メガトロンが腕を組みなおして床を見つめた。

「と、言うことは研究員ではないとそのソフトはダウンロードすら出来ないということか」
「そうなる」
「……アストロトレインには悪いけどご愁傷様ってこったな…」

最大まで伸ばしているため床につきそうなほど弛んでいる自分のコネクタのケーブル部分をくいっと引っ張ると
サウンドウェーブからぶちっとコネクタが外れた。首の奥へコネクタをしまい、両手をあげた。


「流石にお手上げなんじゃねぇか?」
「………」
「………」


これにはサウンドウェーブもメガトロンも反応はなかった。
メガトロンは床を見たまま額に手を当てている。諦めたようにため息を吐いているのを見てますますアストロトレインは
終わったなと思った。これは憶測ではなくまず間違いなくアストロトレインの死を予想したからだ。


「まだ、手はある」
「…無能じゃないってアピールか?いい加減にしやがれサウンドウェーブ!」
「どんな手だ」
「メガトロン様!こんな奴のいうこと聞いてやるんですかい!?」
「スタースクリーム…!」

メガトロンがとがめるように言う。なんでだよ!諦めちまってもいいでしょうが!もう!
サウンドウェーブをに掴みかかろうとしていた手を下ろしてメガトロンを見つめたままため息を吐いた。

「で、次はなんでい…」
「普段利用している接続部は常に状態が最新のものにしているな」
「あぁ。俺も3日前に発売したセイバートロン星新作のレセプタに買い換えたんだぜ?伝達は早いしどんな規格にも合うし」
「…便利なのはいいがその経費どこから落とした…」

メガトロンが目ざとく口を挟む。やべっと内心焦る。作戦費用として落としたからバレたら怒られる。
「自分のですよ。まさか私がどこからか横領でもすると?」と首をかしげてまたサウンドウェーブを見ると
どことなく自分の嘘がばれているような気がしたが気にせず口を開いた。

「何度も話を脱線させんなよ。で、なんだってんだ?」
「最新の接続機を使うとデータの送受信時に自分の情報を乗せてしまうため、研究員かそうでないかの違いがわかる」
「あー…そうかもな」
「つまり古い接続機を使えば情報漏洩を防ぎ、判定がでない」
「……」


大げさにため息をつく。馬鹿か。こいつ。

「そんな古い接続機なんてどこ探してもねぇよ」

自分の名を名乗らないで連絡を取るようなものだ。そんな古い状態の接続機など、とうの昔に忘れ去られている。
生憎だが自分達は地球という過疎な惑星で400万年という間眠りについた。
400万年前でもそんな古い機種は売っていなかったと思う。今では生成すら困難だろう。どこを探しても見つかりっこない。

その内情を読み取ったのかサウンドウェーブは首を横に振った。
スタースクリームは首をかしげて「はぁ?」と言葉を漏らしたがサウンドウェーブはきわめて淡白な声で「ある」と告げた。
どこにだよ。そんな骨董品みたいなもん。あるか?



「股の間にある接続機は滅多に開発されない」
「……」
「今でもデストロン軍団は全員昔の接続機のままだろう」
「……」

俯いて自分の腰まわり、赤い部分に視線を落とすと右手で下腹部に手を当てた。
確かに最後に部品を変えたのはいつだ?間違いなく700万年以上は昔の部品だろう。


「ここでの接続同士なら防護ロックもかからずに抗体が送れるはずだ」
「………ってことはよ」


お前とここをつかって接続しなきゃいけねぇってことかよ?

頭の奥がじんとして、何かに締め付けられるような気がした。