コンバットロンへの情報送信を行って数日が過ぎた。後何体残っているのか確認しないといけない。
しかし割と早く工程は進んでいる。滞りもない。
サンダークラッカーに試した方法、潤滑油を使ってできるだけ奥まで挿し込み送信速度を向上させる。
大きい違いはないかもしれないと思ったが多少の時間短縮にはなっている。

コンバットロンは、俺との接続を楽しもうとした。気持ちくなりたいだろう?と
囁かれ、オンスロート達に押さえ込まれ、もう少しで「交歓行為」になるところだった。
もちろん、コンバットロンは俺が作った機体なのだからスタースクリームへの反抗を禁ずるように設計してある。
それが常にと言うわけではないのが問題だが、本格的に危険を感じればこちらからの遠隔操作で動きを止めるくらいは
できるのだ。それで、なんとか逃れたというレベル。
他のデストロンにはそうはいかないだろう。デストロンの中には当然接続を好まない奴もいれば
相手の意思に関係なく襲うようなやつもいる。

今回何体かと接続して、大体わかった。
コンバットロンは喜んだが当然嫌がる奴もいた。他にも興味深くみてくる奴や、行為の意味も分からない奴もいた。
大半の兵士達は協力的だったが、どう考えても自分への負担が大きい。何より馬鹿ばかりで説明しても
わからんと首をかしげる奴の多いこと。


自分の身体も休憩したがっている。でも早く終わらせなければならない。

…疲れた。内部が気持ち悪い。
いっそ壊れたほうがまだ楽になれる気がする。






寝台に横になっていると布の感触を装甲に感じた。
肩から足元まですっぽりと布がかけられてかすかに暖かい。
気分的なものだが疲れも少し和らいだ気がする。

「スタースクリーム…」
「……」
「起きないのか」
「……」

額に冷たい手が当たる。ひんやりとしていて気持ち良い。

「スタースクリーム」

あぁ。メガトロン様の声だ。低い、渋い声だ。好きだ。この声。
あ、離れていく。つめたい手が離れていく。待ってください。
今すぐその手を掴んでキスしてくれってねだりたい。それでも自分は我慢した。
自分で言いだした。すべて終わるまで接続しない。触れないと。

手が完全に離れていって、自分の寝室から出て行く音を聞く。
扉が閉まる瞬間アイセンサーを起動させて後姿を目で追った。

「…サウンドウェーブ」

濃い青い機体を見て小さく舌打ちをする。
確かにメガトロンの声だった。俺が聞き間違えるはずねぇんだ。
わざわざサウンドウェーブがメガトロンの音声を使って声をかけてきたのか?

手の甲をアイセンサーに乗せて少しだけ目を細める。
ついていたはずの照明は消され暗い自室にため息をひとつ吐き出す。


「…くだんねぇこと、すんな」




STARSCREAM






強い雨だ。冷える。

サウンドウェーブを見て眠りが冷めて、仕方なく仕事を開始する。

今日はビルドロンどもだった。やっぱり一気に大勢はきつい。一体ずつ呼び出すほうが
自分にダメージが少ない気がする。とは言ってもまだ半分以上残っている。
ビルドロンはコンバットロンの馬鹿どもと違って説明すればしっかりと理解した。流石建築系と言うか。
むしろ「下腹部のレセプタクルは確かに古いよなぁ。それが有効利用できるだなんて考えたな」なんて
顎に手を当てて納得していた。おかげでまったく変な雰囲気にならずにすんだ。
数時間後にはスタントロンだ。また一気に5体相手にしよう。そうすりゃ地球にいる同胞の数なんてすぐだ。

スタースクリームは外にいた。わざと雨に濡れるように外で座り込み下半身に手を当てていた。
わざと基地から離れて木に少し身体を預けるようにして自分の下半身を覗き見る。

「…っう…いて、ぇ…」

無理をしすぎたかもしれない。達することはなかったが、下半身がうずく。
出したい出したい。出したい。出したい。
気乗りはしないが自分でコネクタを擦った。ゆっくり指の腹で金属を撫でる。

「はっ、ぁあ…ぅ」

コネクタからでる潤滑油を上手く利用して扱うと耐えるまもなく声が出た。
誰もいない。誰かにやられているわけでもない快感の発生に自然に喘ぎ声がでた。
最近溜め込んでいたせいもある。イキたくても喘ぎたくても耐えていたせいで
今この状況なら誰にも気付かれることなく乱れることが出来る。その感情が喘ぎ声を抑えない。

「…っ…め、がと…さま…」

雨か身体を滴って冷やしていくが内部は熱い。
自然と指の動きが早まって雨の音でもかき消せないような音が発生する。
頭が朦朧として自分が何言っているかわからなくなってきた。

「メ…ガトロン…様ぁっ…ぁっ…」

背筋まで快感が走る。もう暫く触れ合ってない。あの低い声を想像して手を動かす。

「んっ…あ…ひっあ!」

喜悦に満ちた声を出して跳ねた。
両手で扱っていた為、両手のひらに大量にオイルが付着する。
数度痙攣して出し切ると大きく息を吸って、吐いた。
熱い。内部が、頭の中が。

雨で汚れが落ちて行く。もっと大雨になれば良い。
熱すぎるブレインサーキットをきんきんに冷やして、関節部位に染み込んでいっそ錆びたら面白い。

ぱっと雨が止む。おいおい。今日の予報は一日雨だっただろうが。
天気すら俺を裏切るとかねぇわ…。ゆっくりと裏切った空を見上げた。
自分の息が一瞬つまった。


「スタースクリーム…」
「…スカイファイアー…」



真っ白な機体が自分を見下ろしていた。こんな大きかったっけこいつ。
木に寄りかかって座る自分を雨から守るようにスカイファイアーは両手を木について見下ろしていた。
ポツポツと雨がスカイファイアーの背中に当たる音が聞こえる。
青い目は心配そうに、それでいて安心させようと微笑もうとする、複雑な表情でこちらをみる。


「…大丈夫?」
「…なんでいんだよ」
「…」

スカイファイアーは目を細めて何も言わなかった。こちらも何も言わないで見つめ返す。
そうだ、俺も何ぼんやりしてんだ。スカイファイアーは敵だぞ。
最近ぼんやりしていけねぇ。逃げるなり、倒すなりして離れねぇと。


「メガトロンがそんなに好きかい…?」


それはゆっくりと湧き上がった。ぼんやりとしたアイセンサーをクリアにしていく間、自分の身体は熱くなった。
いきなり熱くなるわけではなく、投げかけられた言葉を飲み込んで解釈するまでの時間、自分は硬直した。
無理やりぬるい湯船に浸らされて、その温度が急激に上がるような感覚。
アイセンサーがクリアになる頃にはそれは煮えたぎっていた。
これは人間で言う頭に血が上る感覚に似てると思う。頭部がガンガン殴られたような。
ブレインサーキットが熱を持ってファンが勢いよくまわる。雨程度じゃ冷えない。

聞いてたのか。見てたのか。いつからいやがった。

「スタースクリーム…」
「…と」
「え?」
「破壊しねぇとな」


右腕を突きつける。間髪いれずにナルビームを打ち込むとスカイファイアーは驚いた顔をしながら倒れた。
倒れたスカイファイアーは気絶はしていないが出力を最大まで引き上げたナルビームに指一本動かせないと
言った様子で口から数滴オイルを吐き出した。


「ス、ス…ター」
「…」

倒れたスカイファイアーを立ち上がり上から見下ろす。
草と、濡れて汚らしい泥に倒れこんだ機体は軽度な潔癖の自分には汚物にみえた。
信じられないといった顔でこちらをみるサイバトロンが不思議で仕方がない。
なぜそんな顔をする、お前は敵なのだから撃たれて文句を言うのがおかしい。

また雨が自分に降り注ぐ。冷たくて気持ちが良い。邪魔だったんだよお前。


歩み寄り、スカイファイアーの片脚を持ち上げて膝の部分に足を置く。
関節部位を晒してしっかりと足を置くと持ち上げていた脚を普段曲がらない方向へ
折りたたむようにゆっくりと曲げていく。

「……ス、ター…スクリー…」
「…」
「い、痛いよ…」
「…」


脚の関節が普段曲がらない方向に倒れていってバキンと音がした。装甲やビスがあたりに飛散した。
膝の関節をスカイファイアーのほうへ曲げると装甲が全部はがれて中の配線が全て丸出しになった。
少し捻ると酷い音を立てて足がねじ切れた。配線がちぎれて中からオイルが飛び散るのを黙って眺めていた。
捻った時のスカイファイアーの声は最高だ。低いのに耳に残る綺麗な悲鳴だった。
千切れた配線が蛇のように波打って中のオイルを排出するのを黙ってみていた。顔にオイルが飛び散るが気にしない。

「まだ終わらねぇぞ…」

久しぶりに楽しめそうだ。




*




両足をもいだ。羽をちぎった。通信機壊してやった。


「…まだ意識あるか?スカイファイアー」

意識はあるだろうよ。意識落ちないようにゆっくり丁寧に壊してやってるから。

「わかるか?お前、どこにもいけないんだぜ。誰も助けには来ないしな」

音声までは破壊してないはずだが返事がないところを見ると喋る気力もないか。
このまま放置も面白い。雨に濡れながらサイバトロンが探してくれるのを何日も待つんだ。

「…それじゃつまらねぇか…お前、待ちなれてるもんなぁ?」
「スっ……タス…」
「うんうん。わかってるって」

自分の手はスカイファイアーのオイルだらけだった。べとべとするが気分は最高だ。
スカイファイアーの横に座って首に手を巻きつけた。


「首、取っておくか」


ぎりっと手に力を込めた。指に、全身の力を集めて。
スカイファイアーの青い目がこちらを黙ってみていた、微かに光が弱まっている。
死ね、と声に出そうと思った、口を開くが、それよりも先にスカイファイアーの声帯が震えた。



「そんな、顔……しないで」



え?







『スタースクリーム』


情けない声がでた。ひぃっと飛び上がり、スカイファイアーから手を離す。
え?え、なに、とぶつぶつ呟けば自分の通信機から名前を呼ばれたことに気づいた。
タイミングが悪かった、スカイファイアーが、変なことをいうから思考が完全に停止していた。
そこに突然の通信で自分は動揺したのだ。


「っ…め、メガトロン様…?」
『どこにおる』
「そ、外で気分転換を…」

『時間だぞ』

はっとして体内時計で時間を調べる。
一体何時間スカイファイアーで遊んでいたのか。気付けばあたりは暗い。

『スタントロンの準備が出来た…帰って来い』
「…はい…メガトロン様…」

通信機からメガトロンの声が聞こえなくなって黙り込む。
そうだ、こんなところにいる場合じゃなかった。俺には俺のやるべきことがある。

深呼吸する。苦しいわけじゃないのに息が荒くなる。
戻らねぇと。戻って、またあいつらと。
何をするか想像するだけで背筋が震えた。

するっと足に指先が触れるのを感じて飛び退く。
スカイファイアーがうつろな目でこちらを見ていた。

「…す、スカイファイアー…」

自分でやっておいてスカイファイアーの無残の姿は直視し難いものだった。
先ほどまで盛り上がっていたブレインサーキットが冷静になると自分がどれだけのことをやったか理解できる。
スカイファイアーは両足がないので近寄ってはこなかった。ただこちらを見ていた。

「ター…スクリー…む…」
「…」

口を開くたびにオイルが大量に噴出す。見ていてその姿に畏怖の念を覚えた。
ゆっくり手が伸ばされてくるのを見てぞっとした。数歩後ろに下がることで避ける。
メガトロン様が呼んでるんだ。いかねぇと。お前なんてさっさと死ねば良い。ここで朽ちろ。


「身体…」
「…は?」


スカイファイアーは表情を作れるほど気力もないだろう。
それでも無表情が微笑みに変わっていくのをスタースクリームは見ていた。

それが、恐ろしく、酷く怖かった。

自分の歯を噛み締めて食いしばるとガリっと金属が欠けるような音がした。それでもぎりぎりと食いしばった。
頼む、しゃべるな。俺のを見るな。

頼むから俺を心配するような事言わないでくれ


「ちゃ、ん…と拭いて…冷やし、ちゃ…駄目だか…ら」


気付いた時には自分の片足をスカイファイアーの顔に向かって振り下ろしていた。