次の日からアストロトレインのリペアを本格的に開始した。2週間ほどたてば前のように元に戻るだろう。
サウンドウェーブのチェックも入り、アストロトレインからコスミックルストを検出されなかった事を確認する。
メガトロンはそれを聞いて満足そうに笑ってビルドロンにアストロトレインのリペアを急がせた。

アストロトレインのリペアが出来る。つまりはコスミックルストの駆除成功を意味する。
デストロン軍に所属する奴等はそれに気付いた。もう恐れるウイルスではないことを。
それと同時にメガトロンから命令が下された。

「コスミックルストを駆除できるのはスタースクリームのみだ。日を変えて一人ずつ呼び出す。治療を受けろ」

スタースクリームと聞いて嫌な顔をする奴も多いがメガトロンが
「この治療を受ければウイルス類など感染症にかかる可能性がなくなる」と宣言すれば皆頷いた。


「スタースクリーム」
「はい」
「今日から頼めるな」
「もちろんです」
「うむ。サンダークラッカー」
「え!あ、はい!」

スタースクリームはサンダークラッカーの名を呼ぶメガトロンの声に誰にも気付かれないように反応した。
サンダークラッカーはまさか自分に話が振られるとは思っていなかったのか顔をあげて驚いていた。

「今日はお前だ」




THUNDERCRACKER




廊下をカツカツと金属をぶつける音を立てて歩く。


「治療って何すんだ?」
「…ぐだぐだ言ってねぇでついてこい」
「スタースクリーム。なんかお前おかしいぞ?」
「…どこが」
「そこが」


できることなら自分の寝室は使いたくなかった。接続をする時は大抵メガトロンか俺の部屋だからだ。
しかし、スカイワープがいるだろうサンダークラッカーの寝室では無理だ。
結局スカイワープともするのだから、大きい意違いなどないのだがスタースクリームには
「誰かに見られながら」行為をするなどやったことのない、やる予定もない。そんな状況での接続は嫌だった。
それなら自分の寝室が一番適していると思い、サンダークラッカーについてくるように伝える。

そしてメガトロンから「もう少し情報伝達を早くする方法を考えろ」とも言われていた。
あの浅い接続方法じゃ時間がかかりすぎるのだ。データの受信に協力的だったサウンドウェーブですら時間がかかった。
更にあのアストロトレイン、意識のない状態というのも大きいがスタースクリームが思っている以上に
時間がかかっていたらしい。数時間というから驚きだ。

メガトロンは気性の荒いデストロン達がその間じっとしてられるはずないと考えた。
もちろん協力的でもないだろう。だから伝達速度の向上を求められた。
それを試すのにサンダークラッカーは丁度良いのかもしれない。

そんなことを考えながら速めに歩いていたが
サンダークラッカーの鬱陶しい言葉返しに歩みを止めて睨み付けるように振り返ると同機はびくりと身体を強張らせた。

「……」
「……ほら、おかしいぜ。お前」
「…」
「普段なら『あぁ!?なんだとてめぇ!治療しなくても良いんだぞゴラ!』とかさ」
「…」
「……ほら…怒らねぇじゃねぇか」

サンダークラッカーの表情はちゃかすと言うより心配していた。
自分の顔に手を当てて頬をなぞってみる。自分が今どんな表情をしているか知ろうとしても難しい。
アストロトレインが言ったのはこれか?俺はどんな顔してる?こんな奴に心配されるなんて。

「…ついてこい」
「…おうよ」

サンダークラッカーは俺の顔を心配そうに眺めた後、黙ってついてきた。
部屋に着くまでお互い一言も喋らなかった。


俺は、いまどんな顔をしてるんだ?





*





「入れ」
「あ、あぁ」

サンダークラッカーはきょろきょろと周りを見回したした。

スタースクリームの部屋は久しぶりだ。中は汚すぎず、しかし物で多い尽くされている部屋。
これって何の道具だ?何の部品だ?本当に必要あんのか?と聞きたくなるものばかり。
部品を無くすのを嫌がるから床に散らかってはいないがデスクの上や棚の中にはぎっしり物が詰まっている。

「寝台に座ってろ」
「…おう」

寝台に座って忙しそうに動くスタースクリームを目で追った。
あいつ、最近おかしいんだ。声かけても無反応だったり、空ろな顔してたり。
それに、さっきの顔も。あんな顔、普段しねぇじゃねぇか。

そんなスタースクリームがデスク付属の棚をいくつか開けて中を漁っている。
リペア機具でも探しているんだろうか。だから片付けておけっていつも言ってるのに。
なんならリペアルームでも良いんじゃ?と思った、アストロトレインがリペアルームを
貸し切っているわけではないんだし、端のほうでちょっとリペア器具を借りるくらい…

その提案をだそうと思って声をかける

「何してんだ?」
「…ちょっとな」

見つからないならと切り出そうとすれば、スタースクリームはボトルを持って
こちらに歩み寄ってきた。ゆっくりと隣に座るとこちらをちらりと見た。

「…なんだそれ」
「潤滑油」
「なんでだ?」
「うっせぇな…必要なんだ」

スタースクリームは少し黙った後に「横になれ」と呟いた。
リペア機具が見えないが内部は弄らないのか?
言われたとおり横になって疑問を口に出す。

「キャノピー開けるか?」
「いや、お前は寝てろ。内部は荒さねぇ。ソフトダウンロードだけですむ」
「あ、そう。結構簡単そうなのな。首の受容器で良いか?」
「黙ってろ」

スタースクリームが強く言ってきたので黙る。ぼたぼたと手のひらに潤滑油をたらしているのをみる。
俺って潤滑油べたべたするからあんまり好きじゃねぇんだけどな…何に使うんだろ
スタースクリームが寝台に膝立ちして潤滑油塗れの手を自分の下半身に持っていくのが見えた。
は?と思って顔を上げるとスタースクリームが自分で下半身に位置するレセプタの中に指を入れてるのが見えた。

「な、…なにしてんの?」
「見んな…黙ってろ。寝てろ」

水音を立てながら自分で内部に指を突っ込んでいるスタースクリームを見ていると落ち着かない。
何をしてるんだよ。こいつ…

「…接続するぞ」
「え、だ、だってさ、そこはお前メガトロン様としか…」
「…それと…これとは別…もんだろうが…よっ」

下腹部のパネルを開かれてコネクタを握られる。
上に跨られてスタースクリームの中にコネクタが入り込んでいくとスタースクリームは小さく声を出した。
痛いのか、それとも他の何かに声を出したのかわからないが
スタースクリームはメガトロン様以外との接続が好きではなかったはずだ。
しかも表面的な接続ではない、随分と奥まで咥え込んでいる。

「ぃ…つう…」
「だ、大丈夫か?なんでこんなことすんだ?スタースクリーム」
「…詳しいことはサウンドウェーブ…っにでも聞け…こうし、ねぇと駄目なんだよ…!」

前、かなり前だけど、ジェットロンでちょっとコネクタを触りあったりすることはあった。
でもスタースクリームはメガトロン様と接続するようになってから他の奴と行為をしてるのを見たことがない。
スカイワープに誘われても断ってるみたいだし、案外一途なのかとか思ったりもしたんだけどよ。
まぁ、情報伝達のための接続なんだし、パルスさえ送らなければ快感を感じることもねぇもんな。
そう思ってスタースクリームの顔を見ると考えがとまった。

「ぅ…っ」
「ス、スタースクリーム…?」
「ん、だよ」
「どうしたんだ?」

ただの接続のはずだ。快感を感じることのないただの情報伝達を目的とした接続。
なのにスタースクリームの表情は曇っている。小さくもれる声が快感を帯びている。

「お、お前さ…その…アストロトレインとかとも…接続したのか?」
「あぁ…したな」
「…こうやって?」
「…あぁ」

サンダークラッカーのコネクタがスタースクリームの内部まで入り込むと
準備が出来たのを確認したスタースクリームが小さく深呼吸してデータをサンダークラッカーに送り始めた。
カタカタと身体から機械音がする。サンダークラッカーも送られてきたデータを受け取り次第インストールを始める。
こんな部位での情報受信なんてやったことないがスタースクリームがしっかりと送りつけてくるので問題なく
受け取ることが出来る。受信も割と早く進んでいた。

ただ、いろいろ聞きたい。
なんでお前なのか。
メガトロン様も承諾してるのか。本当に全員となんてできるのか。

こんなことしてお前は何ともないのか?


(平気なわけないよなぁ…)


スタースクリームが苦しそうに喘ぐのを見て自分まで苦しくなる。
こいつは口悪ぃし、素直じゃねぇし、すぐ人のせいにするし、嫌な奴だし。
だけどそれでも何百年も同じ姿で同じように生活してきたからよ。変なところで感情が芽生えてる。
あえて名をつけるなら兄弟愛って言うのか?

頬に手をあてて撫でてやるとスタースクリームは伏せていた顔をあげた。
機械に顔色って、て思われるかもしれないが普段より顔色が悪い、気分も悪そうだ。

「…サンダークラッカー?」
「大丈夫か?」
「…心配いらねぇよ…馬鹿…」
「うん」


頭の後ろに手を回して抱きしめてやる。
スタースクリームの顔を自分のキャノピーに埋めるように強く抱き寄せるとスタースクリームは黙って頭を預けてきた。
小さい喘ぎが聞こえてくるが聞こえないフリをする。スタースクリームはきっと聞いて欲しくないと思ってるだろうから。
データを送ってくるペースは安定しない。速かったり、時折止まったり。

「早く終わるといーな…」
「…あぁ」
「…何かあったら言えよ」
「…あぁ」
「…」

データが送り終わって自分で解凍する。インストールしながらスタースクリームの頭を撫でていると
スタースクリームがゆっくり動いてぬめったレセプタからコネクタを抜いた。
サンダークラッカーがそのスタースクリームの顔を見てやる。あぁ、お前。

「…」
「…ん、なんだよ…」
「…いや」

サンダークラッカーはスタースクリームの顔をずっと眺めていた。
スタースクリームは首をかしげて浅く息を吐いていた。

「…」
「…だからなんだよ」

指先でスタースクリームの顔を撫でる。
スタースクリームは目を細めてその指を甘んじて受けていた。

サンダークラッカーはスタースクリームの唇に触れてあげたいと思った。

指で唇を撫でて、口内を割って舌を押し込みたい衝動に駆られる。
好きだからじゃない。当然慰めたいわけでもない。
しかし触れてしまったらこれはメガトロン様の命令どおりでなくなるだろう。
スタースクリームは情報を送るためだけに起こった行為だ。
優しくされたいだとか、キスされたいだなんて願望は少しもないだろう。
むしろキスなんてしたらスタースクリームの自尊心を傷つける気がした。

だからお前、今の顔、他の奴に見せないほうがいいぜ


「なんだよ。サンダークラッカー」
「なんでもねぇって。お…俺もインストール終わったわ。これでウイルス感染の危険性なくなったわけかー…」
「んだよ…お前…」



俺以外の奴がその顔見て我慢できるとは思えねぇわ



気だるげに横たわるスタースクリームを見つつ、兄弟に触れるように頭を撫で続けた。