「すぐ終わる」
「す、すぐ終わるじゃねぇよ!」

するりと、まるで今から情事な出来事の始まりを意味するような手つきでサウンドウェーブが
スタースクリームの肩から肘にかけてゆっくりと撫でた。
ぞくりと、全身に震いが走る、それは間違いなく恐怖の交じる震えだった。

スタースクリームは全身で大きく表現をするようにメガトロンを見る。
その際にサウンドウェーブの腕もしっかりと振り払いその気はないことを破壊大帝にアピールしつつだ。
なのに、メガトロンは無表情でこちらを見ていた。

「メ、メガトロン様も、ねぇ?わかるでしょう?」
「何がだ?」
「接続ですよ!俺とこいつが!」
「……そうだな」
「そうだなって…!」


メガトロンは無表情のまま、なんの気にも留めないような所作だった。
言葉には出さなかったが脳内には一つの言葉が巡っている。

いいんですか?

俺がコイツと接続しても。下腹部同士の接続がどんな意味を持つか知ってるでしょう?
首での接続と下半身の接続とじゃ「ライク」と「ラブ」以上に意味が違う。
いつもあんたと接続してるじゃないですか。ねぇ。

女々しいと思いつつもメガトロンが「それは駄目だ」と言うのを期待していた。
まさか、サウンドウェーブとの接続を認めるはずがないと、メガトロンはオレを独占したがっていると
女々しくもスタースクリームは自惚れ、それをメガトロンが言ってくれると思い込んでいた。


「サウンドウェーブ。どれくらいで終わる」
「…問題なければ10分もかからない」
「わかった」
「メガトロン様!!」

メガトロンが背を向けた。どうして。なんで。

追いかけて振り向かせて殴り飛ばしてやりたい。あんたにとって俺はそんなもんなのか?
俺があんたに感じてる感情を、あんたは感じてくれてないのか?

その不安と怒りの感情はすぐに行動に移る。
足が自然と前に進み、白銀の胴体に向けて何かしらの攻撃を加えようと腕があがる。
メガトロン。てめぇ。

「っ…!?」

振り上げた腕をがっちりと掴まれた。
右腕の肩から肘までの間をサウンドウェーブが掴んでくる。
肩越しにサウンドウェーブの顔を見るとサウンドウェーブは無言だ。
ただ、静かにスタースクリームの顔を見て、何か伝えようとする視線を送りつけてくる。

「15分したら戻ってくる。それまでに終わらせておけ」
「了解」
「メガっ…」

メガトロン様。

メガトロンの方に目線を戻すとメガトロンは既に廊下へ続く扉をくぐり、廊下へと立っていた。
扉の開口パネルを押したまま、こちらを見ているメガトロンの表情はいつも通りだったと思う。
馬鹿馬鹿しい。何で歯の根が合わない。がちがちと歯同士がぶつかって鳴らした。
ゆるく首を振る。嫌です。本当に嫌なんです。冗談じゃないです。ねぇ、なんでわかんねぇの?

「メガトロン様っ…」
「…頼んだぞ。スタースクリーム。サウンドウェーブ」


音もなく扉が閉まった。





Soundwave







ガチガチと、歯の根が合わないのをサウンドウェーブにばれないように口を押さえた。
喉の奥に、スパークが飛び出してきそうな脈を感じる、ひどい吐き気だと思った。

扉が閉まってすぐ、サウンドウェーブが自分のコネクタを取り出す動きが見えて飛び退く。

「な、にしてやがる!」
「何を。とは何だ?」
「しまえよ!それ!」
「…早く下腹部レセプタをだせ。すぐ終わる」


また腕を掴まれると引き寄せられる。好意を持った行動ではない。
面倒くさそうに引き寄せると反抗する前にサウンドウェーブがスタースクリームのかかとを手前に蹴った。
軽い蹴りではあったが足の重心を手前に倒されると同時に上半身を床へと押されればバランス感覚の
良いスタースクリームであってもあっけなく床へ倒される。

喉が「ひっ」と息を吸う。サウンドウェーブはそれを聞いてかスタースクリームの頭に手をそえると
床に打ち付けないようにゆっくりと押し倒していく。

「何故わからない」
「な、にしやがんだ!!」
「メガトロン様が嫌がるだろうと、お前を気遣い外へでた」
「…いらねぇ気遣いすんな!そんな気遣いより…!」
「ならメガトロン様を呼び戻すか?見られながら接続したいならそうしよう」
「っ…」
「黙ってアイセンサーの出力でも落としていろ」
「…嫌だ…」


「…すぐ終わる」

体格に見合う、太い声で、聴覚機器にマスクを押し当てるように囁く。
それがメガトロンの行動とそっくりで背筋がざわついた。


下腹部同士の接続なんて滅多にしないものである。
情報の伝達なんて首や胸部の接続機具で十分間に合う。
そのため、下腹部での接続なんて未経験の者の方が多いだろう。

スタースクリームは例外だった。メガトロンに仕えるようになってからと言うもの
毎日のように接続していた。当然目的は情報伝達なんていうものの為ではない。
お互いの快楽のためだけに接続を続けてきた。
地球に来てから接続の数は極端に減ったものの、それでも時間が空けば接続していた。


「快感を伴うものは送らない。そうすれば快感を感じずにすむ」
「……」
「これは情報伝達が目的だ。デストロン軍団の為であり、私利私欲は関係ない」
「…っ…だけどよ」
「メガトロン様もそれを理解の上だ。性行為ではない」


わかってる。
メガトロンが俺に言った。「頼んだぞ」と。
軍のためだけに働くあの人だ。

事実送ってくるパルスに快感を含むものがなければそれはただの情報であり、交歓行為にはならない。
それをメガトロンのあの目はわかっていた、サウンドウェーブもわかっていた。
これはなんでもない行為なのだ。ひどく取り乱す自分だけが滑稽でいっそ哀れにも見える。

それを薄々感じていたスタースクリームは抵抗をやめるとサウンドウェーブを押しかえす腕の力を抜いた。
サウンドウェーブが下腹部に手を伸ばしてパネルを開き、そこにあるレセプタの位置を確認する。
背中に床を感じながら片脚の膝裏に手をあてられ、そのまま脚を持ち上げるように押し込まれるとレセプタの位置が
見やすくなったのか開いた片手でレセプタに触れてくる。

メガトロンとの行為でもこういった体位で接続することが多い。
意識しないように顔を背けて壁だけを見つめる。
前戯やら慣らすやらそんな行為は必要とせず、レセプタを見つけるとすぐコネクタをあてがった。
接続可能部位、表面的な部分で接続をする分には「慣らす」なんて作業は不要なのだ。


「奥まで差し込まないから痛みはない」
「…良いから早くしろ」
「……」

違和感に顔をゆがめる。サウンドウェーブのものが自分のレセプタにかぶさりカチリと音がした。
大丈夫だ。快感は感じない。性行為の時に関しては奥まで差し込む場合が多いのだがサウンドウェーブはそれをしない。
だからスタースクリームの中でしっかりと差別化が図れていた。

「…送信しろ」
「…んっ」


違和感を意識の外に押し出しながらブレインサーキットにウイルス駆除ソフトのコピーを生成し
それからサウンドウェーブに下腹部レセプタから送信と指定して開始する。
スタースクリームのアイセンサーがカチチと小さな稼働音を立てて赤く明滅する。
サウンドウェーブも受け入れ態勢に入るとバイザー越しにアイセンサーがかすかに光った。


「……流石に使っていないと伝達が遅い」
「仕方がねぇだ、ろ…!」
「どうした」
「……っ」

サウンドウェーブは何ともなさそうだったが、スタースクリームの表情は少しこわばっていた。
些細過ぎるその違いにデストロン軍でも有能な情報参謀サウンドウェーブが気づかないはずがなかった。

「何もしてないが」
「頼むから、うご、くな!」

サウンドウェーブが少し動くたびにレセプタが擦れて快感が走った。自然と口から震えた声がでる。
普通ならレセプタとコネクタを繋いだくらいじゃこんな快感を感じたりはしないだろう。

しかし、スタースクリームの身体は勘違いを起こしていた。
メガトロンが、接続する前の焦らす動きに、酷似している。
それに反応する身体は早く奥まで入れ欲しいと疼きの悲鳴をあげていた。
こんなところでメガトロンとの接続での経験が仇になるとは思わなかった。
サウンドウェーブもそれに気付いたようで無言になった。

「はやく…データ受け取れよ…!」
「……データ受信率28%…まだだ」
「……っ…ん…」

サウンドウェーブは気づいている、自分の口からかすかに漏れる声の種類を。
ただ、ばれてるのには気付いていたがサウンドウェーブなんかに自分の痴態を見せたくなくて
唇を強くかみ締めた。声を漏らさないように耐え忍ぶ。

「…少し奥に差し込むぞ」
「だ、駄目だ!」
「データ送受信の反応が遅い…早める為に少し深く差し込む」
「駄目だ!動くな!」
「ゆっくり動く」
「やめやが…!」


サウンドウェーブの肩を掴んで震えるとサウンドウェーブが押し入ってきた。
口をかみ締めていたのにその快感に耐え切れず声が漏れ始める。
レセプタ内の擦れを快感と認識したブレインサーキットが自分の意思とは無許可に
レセプタ内に潤滑油を溢れさした。ぐちっと水音にサウンドウェーブが舌打ちをする。


「…なんのつもりだ」
「違うっ!ちが…!」
「……」


ため息を吐かれる。心底嫌そうな声に身体が硬直した。
サウンドウェーブは反応してしまう自分の身体について理解はしているが
それがメガトロンだけでなく、サウンドウェーブでも反応することに嫌悪感を感じているようだ。
バイザーとマスク越しでもわかる嫌悪の雰囲気に悔しくなる。ぎりっと歯を食いしばって耐える。
気にせず体内に押し入ってくると受信を開始した。先ほどよりも送信するスピードが早まった気がする。

「まだっ、かよ…」
「…60%到達。半分切った」
「…もう…動くなよ…」
「……」


黙って受信を開始したサウンドウェーブの顔を見ないように両腕でアイセンサーを隠した。

視界が真っ暗になると、メガトロンが勝手に思い出される。
メガトロンに行為中、悪戯に近いことをされる、それが今のような「接続」しているのに動かない。
「接続」しているのにパルスを送らないといったことだった。
低い声で「欲しいか」と聞いてくる大帝に縋った事は少なくない、欲しいと、奥まで挿し込んで
揺さぶって、何も考えられなくなるようなパルスが欲しいと懇願することもあった。
サウンドウェーブの無言で見下ろしてくる姿が、メガトロンと、かぶる。

「…っ…」
「……80%」
「ぁ…」
「…90%」
「っ…う」
「……終わった…引き抜くぞ」
「ひぁ」

レセプタの内壁を強く擦られ耐え切れず声がでた。
嫌な水音がしたが引き抜き終わるとサウンドウェーブは受け取ったデータをインストールし始めた。
サウンドウェーブからカタカタと電子音がすると納得するように一度頷いた。

「思ったとおりだ。これでアストロトレインにもデータを送れる」
「……おわ、りか」
「あぁ」

ゆっくり上体を起す。何気なく下腹部を見るとコネクタが反応していた。
コネクタからとろとろとオイルが漏れてくるのを視界に捕らえ、恥ずかしさに自分の頬が熱くなった。

ひっそりとサウンドウェーブに背中を向けて息を落ち着かせる。
暫く耐えれば反応もおさまっていくはず。
ちらりとメガトロンにこれを収めるのを手伝ってもらおうかとも思った。
しかしサウンドウェーブとの接続後、すぐにメガトロンに抱かれるのは少し嫌だった。
何よりサウンドウェーブとの接続に反応しただなんてばれたら。

「…メガトロンが戻ってくるまで5分ない」
「わかってる…黙ってやがれ…」
「…」

背を向けていても自分の行動と感情を察することが出来るサウンドウェーブがそう助言を告げる。
わかっている、すぐに収めないといけない。
サウンドウェーブの動く音が聞こえ、ガシャンと金属同士のぶつかる音がした。
疑問に思って振り返るとしゃがんだサウンドウェーブが真後ろにいた。

「なんだよ…」
「手伝ってやる」
「は、はぁ!?」
「メガトロン様の手だと思えば良い」
「や、や、だ。良い。遠慮する」
「快感を押さえるのはもう間に合わない。一度だせ」
「いい!や、め」

背中と羽にサウンドウェーブの胸元があたった。
肘でサウンドウェーブを引き剥がそうとしたがそれより早くサウンドウェーブの両手が
背中から脇の下を通ってコネクタに触れた。

「っあ!」
「後ろを向くな。メガトロンだと思え」
「んっ…、や」

ゆっくりと、しかし的確に快感を与えてくる手を引き剥がそうにも引き剥がせない。
潤滑油を上手く使ってコネクタが摩擦で痛まないように扱ってくる。
こいつ上手い。すぐにでも達してしまいそうになる。

「ぁっ…!」
「早くいけ」
「んんっ…!」

首を横に振る。だめだ。達するわけには行かない。
メガトロンはこんなことをさせるために俺らを2人きりにしたわけじゃない。
こんな、メガトロンに隠れて、こんなことを。

「スタースクリーム。早く」
「いや、だ…!っ…!」

前かがみになって歯を食いしばる。耐えようと思っても耐え切れないのはわかっていた。
それでもこいつにイかされるのは納得いかない。

「…メガトロンに今の状況を見られても良いのか」
「…っ…はな、せ…放せば…!」
「…」

機械音がした。カセットを再生させるようなボタンを押した後にキュルっと巻き戻すような音。


『スタースクリーム』


「ひっ…」
「…」

メガトロンの声。

『まったく。何をしておるか』

「め、メガトロン様…っ…?」
「…」

指の動きがだんだんと激しくなっていく。
引き離そうとしていた手はすでにサウンドウェーブから離れていた。
両手を床について肩を震わせる。
サウンドウェーブ…ふざけんな…そんな録音されたメガトロンの声に騙されると思うなよ。
それでも身体は反応していた。大帝の表れに快感を表にだすことを許可してしまい
ますます耐え切れずに喘ぎ声が漏れる。

「…サっ…サウンド…おねがっ…」
「なんだ」
「やめてくれ…!嫌なんだ…!」
「メガトロンが戻ってくるまで後1分だぞ」
「嫌だ…!頼むから…」
「……いけ」

ぎりっとコネクタを強く掴まれる。
その動きがメガトロンに少し似ていたのが原因だ。

「はっあ…!!」
「……」

額を床に勢いよくぶつける。
口をかみ締めると床にオイルの落ちる音を聴覚が拾い上げた。

「……」
「……」

サウンドウェーブの指がゆっくり離れていく。
少しの間じっとしているとサウンドウェーブは近くの研究施設内にある布を引っ張ってきて
自分の手と俺のコネクタと床を拭いた。
ギッと音がして部屋につけられているスピーカーが響いた。そこからはメガトロンの声が発せられた。


『…サウンドウェーブ…終わったか?』
「……」
「はい。メガトロン様」
『ソフトは』
「インストールできた。アストロトレインにもインストールさせて結果をまつ」
『うむ。ご苦労だった…それから。スタースクリーム』
「……はい」

床に頭を押し付けたまま、土下座にも近い体制でスタースクリームは返事をした。
音声だけの大帝はスタースクリームのそんな姿勢に気づくことは出来ない。
サウンドウェーブも、スタースクリームより離れた場所で壁を見つめるようにしている。

『儂の部屋へ来い』
「……はい」
『……通信を切断する』
「了解」

サウンドウェーブがメガトロンの声に承諾をするとボツっと音がしてスピーカーの電源と共に声はなくなった。
暫く動きたくない衝動に駆られたがそうもいかず、床に伏せていた身体を気だるく起こす。
その際こちらを見たサウンドウェーブと目が合う。
ゆっくり顔をそらすとサウンドウェーブは新しい白い布を渡してきた。その布を一瞥して低い声を返す。


「…なんだ」
「顔くらいは自分で拭け」
「…顔…?」


頬に手をやるとそこがしっとりと濡れていた。






*




「…スタースクリーム」
「…メガトロン様…」
「…すまなかったな」
「……」
「軍のため…お前のためでもあるのだぞ」
「わかってます」


メガトロンは寝台に座っていた。
寝室に入るとメガトロンの目の前まで歩み寄り、手が触れるか触れないかのところで歩みをとめる。


「…貴方は破壊大帝メガトロンだ。軍のことを考えて、行動する義務があります」
「……」
「私は…大丈夫です」
「…そうか。思ったより2らしい台詞が聞けて嬉しいわい」
「……」

メガトロンの脚の間に身体をはさむと首の後ろに両腕を回した。
自分らしくもなく強く抱きしめる。メガトロンは一度だけ微かに笑って頭を撫でてきた。


「…どうする?スタースクリーム」
「………」

首を左右に振る。嫌だ。今日はもう無理だ。
どうするとはこの状況だ。このまま倒れこんでしまえばいつものようにメガトロンを味わえるだろう。
しかしとてもじゃないがそんな気分になれない。
メガトロンはそれを察したのか「わかった」と一言だけ呟いて寝台に身体を乗せてくれた。


「今日は眠れ…スタースクリーム」
「…メガトロン様…」


地球のガキどものようにメガトロンの手を握ると
今日を過去にしてしまいたくて一気にシステムをダウンさせた。