スタースクリームを憎いと思ったことはない。


epilogue after



「メガトロン様。この映像をどうぞ」


デスクについていた破壊大帝にその映像を渡したのは別に何の私的感情はいれてなかった。
スタースクリームを陥れたいわけでも、なんでもなかったのだ。
編集したディスクを渡して中を見てもらえばメガトロンの表情は固まった。無表情と言っても良い。

ディスクの中身はスタースクリームが同胞達と接続していたものだった。
ディスクを渡した時の自分の言い訳は「近況報告」だった。
近況報告の結果、スタースクリームを捨てて来いと言う命令が下された。
自分はそれを「自業自得だ」とも思った。それにどうせすぐに戻ってくるとも思った。

ただそれは間違いだった。




*




「メガトロン様」
「なんだ」
「スタースクリームに連絡がつかない。デストロン反応もない」
「…探せと命令はだしていないが?」
「…そうか」


メガトロンは探すように言わなかった。意地になっているのだろうか。
しかしスタースクリームが見つからない。
スタースクリームに罰として捨てた後の回収は自分の仕事だ。
そろそろ回収しようと思ったが捨てた場所になかった。移動したのだと地球のデストロン反応を検知しても
スタースクリームのみ発見できず、最悪「破壊された」か、「死んだ」かと考えた。
メガトロンに頼まれずともスタースクリームの捜索を続け、コンドルがスタースクリームを発見した。
意外な形で。

「…」

あの死にぞこないめ。それが第一声。
この間スタースクリームに半壊させられているのは知っていた。
にも関わらず、スタースクリームを助けようとし、さらにリペアついでにキスなどの行為も見られる。
この時、憎いと思った。殺してやると。

すぐに奪い返すことなどできた。しかし連れ出してもメガトロンがまだ承諾しないだろう。
スタースクリームの目が覚めればまた自分でスカイファイアーを破壊して帰ってくるかもしれない。
スカイファイアーのリペアにばれない程度に手を加え、スタースクリームが目を覚ますようにした。

まず、スタースクリームの目が覚めない理由は自己再生能力の低下にある。
その能力の低下は間違いなく精神面への負担が原因だ。メガトロンの裏切りをどこまで重く受け止めたのか。
普段スタースクリームの自己回復能力が強い理由は「死んでたまるか」や「復讐してやる」など
生への執着心がその回復能力へと直結しているのだが今回はそれがない。死すら受け入れているのかもしれない。
スカイファイアーはそのブレインサーキットへの負担を減らすリペアをしていなかった。
だから自分がやってやった。


『スタースクリーム。今日、いや明日かな?私にとって大事な日になるんだ』
『私はサイバトロンをやめようと思ってるんだ』
『君も、もうあそこには戻らないだろう?なら、私がサイバトロンにいるのは間違っていると思うんだ』
『…君だけを守ろうと思う。この身体を君だけの為に使うよスタースクリーム』
『サイバトロンも、…デストロンもしらないそんな星を探そう。そこでゆっくり過ごすんだ』


あの言葉の最中、スタースクリームの意識があるのはわかっていた。
スリープ状態のフリをしてスタースクリームがスカイファイアーの言葉をしっかりと受け止めているのもわかった。
駄目だ。このままではデストロンへ戻ってこない。今すぐ自分が止めに入ろうか。
いや、自分が止めに入ったところで何ができるだろうか。

スタースクリームは自分を憎んでいるだろう。
大体このデストロン達との接続を考えたのは自分だ。
そして嫌だというスタースクリームと接続し、達するまであいつを攻めたてた。

自分だと逆効果だ。

「…メガトロン」
「どうした」

すぐにメガトロンの元へ行った。

「スタースクリームが見つかった。通信機も直っている」
「そうか。わかった」

メガトロンはそれだけ言って通信機からスタースクリームに連絡をいれた。
暫くあちらの受信を待つとピッとあちらが受信したのを知らせる音がした。


『メガ、トロン…?』

ぼそぼそと恐れるような、遠慮しているような声が聞こえる。
久しぶりに聞いたスタースクリームの声だ。


「帰って来い愚か者めが」


ブツっと音を立てて返事も聞かず通信機をきるとメガトロンはまた仕事に戻った。
…なんだ?どういう意味だ。スタースクリームの性格からして逆効果な気がした。

「…それだけか」
「これだけだ」

それきり黙った自分にメガトロンはこちらを見た。
口元だけで笑うとまたモニターに顔を戻す。

「あいつにはこれで十分なのだ」
「…そうか」
「今ので儂の言いたいことは大体伝わっとる」
「…」

自分は呆気に取られていたと思う。
「そうか」と返すとそのまま部屋を退室した。
調べるとスタースクリームがこちらに向かっているのもわかった。

あの死にぞこないも。メガトロン様も愚かなスタースクリームに愛情を持っているのだろうか。
きっとそうだろう。ブレインスキャンをせずともわかる。
本気でスタースクリームに思うことがあるのだろう。
だからこそスタースクリームを動かすだけの言葉が吐けるのだ。
スカイファイアーのあのサイバトロン抜けの意思表示。あれはきっとスタースクリームにとって
大分内心を揺れ動かすことのできた言葉だろう。スタースクリームは単純だから。
しかしスタースクリームがメガトロンを選んだのはメガトロンのほうが
スタースクリームを理解していたと言うことだろうか。


死にぞこないに言われた。

「君はスタースクリームが好きなのかい?」


くだらない。お前と一緒にするなと言いたい。
俺はスタースクリームの性格も把握し切れていないくらいスタースクリームに興味がない。
把握しきれないからあいつに何も言ってやれない。

「それはない」

嘘偽りはなかった。



*




「スタースクリーム」
「んだよ」
「何をされた」
「何も」
「何もか」
「何も。なんだよお前」
「………」
「……なに?」
「何でもない」
「…あっそ…」


ただ気になっただけだ。ここでお前に何かあればメガトロン様がまた激昂する。


「スタースクリーム」
「んだよ」
「『覚えとけよ』は、どれのことだ」
「……そんなに身に覚えあんのかよ」
「スカイファイアーを死にぞこないと言ったことではないのは理解してる」
「……じゃあどれだと思った?」

お前にあんな作戦をやらせたことか?俺と接続したことか?
メガトロンに接続しているディスクを流したことか?時々メガトロンのフリをしてお前の寝室に入っていたことか?
隠れてお前をリペアしたことか?スカイファイアーと引き離す為にメガトロンをけしかけた事か?

先ほどのスカイファイアーとの密会映像をメガトロンに流そうかと考えている俺自体をか?

「…」
「…」
「…何でもない」
「……あっそ…」


そんな面倒なことはしない。また大義名分「近況報告」として先ほどの映像を流したとしても
今度はメガトロンは何とも思わないだろう。思ったとしてもこれの繰り返しだ。捨てて拾ってリペアして。

F-15の中でサウンドウェーブは少しだけの間スリープモードに入った。



*






カツカツカツ。カツカツ。


機嫌の良いメガトロンの顔。その後ろの大き目の寝台に横たわるスタースクリーム。
足をぶらぶらさせてだらしなく寝台より降ろした手。その指先で床を叩くメロディー。
うるさくて適わない。退屈だアピールと幸福感をふくみ奏でるあの音が。

「メガトロン。スタースクリームが」
「…わかったわかった。また後で連絡するわい」

メガトロンが仕方がなさそうに笑う、しかし破壊大帝らしくない「幸せ」という感情をふくむ。
自分がメガトロンとの寝室を繋ぐモニターの電源を落とすためにそのスイッチに手をそえる。


「悪いね。ラジカセ野郎」


その言葉に怒鳴るメガトロンとこちらにひらひら手を振るスタースクリームにため息を一つ吐いて電源を落とした。
自室に急に静寂がやってくる。静かだ。今までのうるささはどこにいったのかと思うほどに。


きっとセイバートロン星に帰るまで。毎日こんな日々が続く。
考えただけで疲れた。




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音波さんってわからない人。
でもスタースクリームは音波さんとのこの微妙な関係を楽しんでたら良いと思う。